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TIM(Thermal Interface Material)の放熱原理と熱伝導シート 炭素繊維タイプの特性

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エアギャップを埋めて熱伝導性を高めるTIM

TIM(Thermal Interface Material)とは、電子機器の内部で発生した不要な熱を効率よく放熱するために部材間に挿入される熱伝導性材料のことを指す用語です。一般的にはIC(集積回路)などの発熱体とヒートスプレッダーやヒートシンクといった放熱部品の間に挿入する形で使用されます。

ICやヒートシンクなどの放熱器の表面は見た目に平らに見えても、ミクロに見るとその表面には製造過程でできた傷などの細かな凹凸が存在します。そのため両者を直接密着させても、ICと放熱器の間には少なからず空隙が残ります。空気はとても断熱性が高い(熱伝導率が小さい)ため、ICの熱は空隙を避ける形で伝播していくことになり、結果、効率よく熱を外部に放熱することができません。それを解決するのが、TIMです。熱伝導シートに代表されるTIMをICと放熱器の間に挿入することで、お互いの表面の細かな凹凸の間にTIMが入り込みます。熱伝導性のいいTIMが双方間をすきまなく密着することで、密着面全体を使った熱の伝播経路ができるようになり、効率よくICの熱を外部に逃がすことができるようになります。

TIMの熱伝導率はフィラーの物性と密度に依存

TIMは凹凸にしっかりと入り込む必要があるため、十分に柔軟であることが求められます。そこで主成分として用いられるのが柔らかい樹脂です。一方、樹脂の熱伝導率は低いため、TIM全体の熱伝導率を上げるためにフィラーが添加されます。そのフィラーの物性と密度によって、熱伝導率は大きく変わります。熱伝導シートでは、窒化ホウ素(BN)や窒化アルミニウム(AlN)、アルミナ(Al2O3)などが代表的なフィラーとして用いられています。

TIM内での熱の主な伝播は、下記のようにフィラーの接触点を介して行われ、低熱伝導率の樹脂を介した熱の伝播は期待できません。そのため、フィラー同士の接触点が多いほど熱の伝播に有利になるため、高密度に充填したほうが、性能が高くなります。

下記の図は、フィラーにアルミナ(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)を使用した際の体積充填率と熱伝導率の関係を表したものです。充填率が80%を超えたあたりから、急激に熱伝導率が上がることがわかります。

フィラーの充填率を上げるノウハウ

フィラーの充填率を上げるための工夫として行われるのが、大きな直径の球状フィラーのすきまに、小さな直径の球状フィラーをすきまなく充填する方法です。ガラス瓶の中に大きな丸い石を入れたあとで、その間に小さな粒の小石、さらに小さな砂を入れていくイメージです。そうすることで、フィラー同士が近づき、熱が効率よく伝播していきます。注意すべきポイントとして、フィラーの形がバラバラだとたくさんの数が充填できないので、できる限りフィラーの形状を一様に丸く揃える必要があります。理想は真球になります。どういう粒子径のフィラーを、どれぐらいの割合で入れるかによっても熱伝導率の値は変化するため、当社を含むTIMのメーカーは研究に基づく独自のノウハウを蓄積しています。

下記は、熱伝導フィラーとして用いられる各種の材料の熱伝導率を示した図です。右に行くほど高い熱伝導率を持つ物質となります。電子機器に実装するには耐水性や毒性の問題、コストもクリアする必要があるため、セラミックス酸化物の中ではアルミナ(Al2O3)、窒化物では窒化アルミ(AlN)がよく使われます。高い熱伝導率を持つ物質としてはカーボン(炭素)もあり、弊社では炭素繊維を使った熱伝導シートのTIMを独自に開発・量産しています。

炭素繊維の熱伝導は格子振動による

ほとんどの場合、金属の電気伝導度と熱伝導度は比例関係にあります。それは金属における熱の伝播が、電気伝導を担う自由電子の移動によって行われることが理由です。炭素繊維も電気が流れるため、同様に自由電子の移動によって熱伝導が起こると思われがちですが、そうではありません。下記のグラフを見てもわかるように、炭素繊維の電気伝導度は金属とは大きく差があります。実際には自由電子の移動ではなく、堅牢な原子の格子構造が振動することで伝わっています。

高い熱伝導率を実現する炭素繊維熱伝導シート

炭素繊維をTIMのフィラーとして用いる場合に押さえておく必要があるポイントは、「熱伝導異方性」があることです。熱伝導異方性とは、「向きによって熱伝導率が違う」物性を意味します。細く長い髪の毛のような構造を持つ炭素繊維は、長さ方向には高い熱伝導率を持ちますが、直径方向の熱伝導率はその数百分の1程度になります。それゆえ、炭素繊維をフィラーとして使って高い熱伝導性能を得るには、炭素繊維の「向き」を熱を伝える方向にそろえる必要があります。

下の左の図は、球状のフィラーを充填した熱伝導シート(シリコーン系、アクリル系)の内部イメージになります。先に説明したように球体のフィラーを伝って熱が移動する場合、フィラー同士の接触点を通ることになります。その接触点における熱伝導は、格子振動で熱が伝播できる「フィラー内部」よりも悪くなります。下記の図のように4つのフィラーの間を熱が通り抜けるとすれば、3箇所でより高い「熱抵抗」を受けることを意味します。

一方で、髪の毛のように長い炭素繊維をシートの内部で垂直に並べることができれば、フィラーに比べて接触点の数を大幅に減らすことができます。デクセリアルズでは、この炭素繊維を一定の方向に並べて樹脂の中に充填する独自の技術を確立し、炭素繊維タイプの熱伝導シートの量産に成功しました。これにより、従来の球状のフィラーを用いた熱伝導シートに比べて高い熱伝導率を実現しています。

デクセリアルズの豊富な熱伝導シート

一方、熱伝導シートを選ぶ際には、熱伝導率だけでなく、柔軟性も重要な選定項目となります。当社の製品分布を以下に示しますが、標準タイプの熱伝導シートは、非常に柔らかいものから、硬いものまで柔軟性のバリエーションが多く、使用部位や組込工程にあった製品を選んでいただくことが可能です。一方、高性能タイプも10W/m・Kを超える高熱伝導領域で複数ラインアップしています。私たちデクセリアルズでは、豊富なラインアップの中からお客様の用途に応じた最適な製品をご提案させていただきます。電子機器の放熱方法について検討される際は、ぜひ当社までお気軽にお問い合わせください。

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