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二次保護素子の基礎知識 リチウムイオン電池を発火から守るSCPとは

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リチウムイオンバッテリーの優れた特性

スマートフォンやノートPCなどの電源として使われるリチウムイオンバッテリー。技術の進歩により小型化や大容量化が進み、ドローンや電動バイクなどにも搭載されるようになっています。「現代の生活に不可欠」と言っても過言ではないほどリチウムイオンバッテリーが多様な用途で使われるのは、他の電池にはない次の3つの優れた特性があるからです。

  1. 高電圧・高密度エネルギー
    リチウムイオンバッテリーからは、同サイズの一個あたりでニカドバッテリーやニッケル水素バッテリー(いずれも公称電圧 1.2V)の約3倍の高電圧(公称電圧 3.7V)が得られます。すなわち、従来の電池よりも少ない電池(セル)数で同じ電圧を生むことが可能。また他の電池と比べてエネルギー密度も高いため、製品の小型化・軽量化につながっています。
  2. 自己放電特性
    リチウムイオンバッテリーのひと月あたりの自己放電率は5%程度。ニカドバッテリーやニッケル水素バッテリーの自己放電率と比較すると5分の1以下で、数ヶ月間そのままにしておいても1ヶ月放置したこれらの電池とほぼ同じ量のエネルギーを取り出すことができる。
  3. 非メモリー効果
    従来のニカドバッテリーやニッケル水素バッテリーの場合、浅い充電を繰り返すと電池そのものの放電容量が下がり(メモリー効果と呼ばれる現象)、リチウムイオンバッテリーにはメモリー効果がなく、これにより「継ぎ足し充電」が可能となります。
各種二次電池のエネルギー密度

リチウムイオンバッテリーの安全上の課題

下図に電池の分類を示します。本稿に登場する電池は化学電池に分類される2次電池(充電して繰り返し使える電池)になります。中でもリチウムイオンバッテリーは高出力で小型化・軽量化ができるバッテリーで、エレクトロニクス機器のバッテリーとして従来のバッテリーの性能を大きく上回っています。しかし一方で、その実用化と普及のためには、解決しなくてはならないさまざまな課題があり、その一つが「充電しすぎると危険」というものです。

電池の分類図

まず、以下に身近な二次電池(鉛バッテリー、ニカドバッテリー、ニッケル水素バッテリー、リチウムイオンバッテリー)を構成する正極・負極の活物質と電解質の代表例を示します。電解質の中で、溶媒に注目するとリチウムイオンバッテリー以外は「水」が使われていて、リチウムイオンバッテリーのみ「有機溶媒」が使われています。これは水の電気分解電圧(1.23V)を超える公称電圧を実現するためです。

二次電池を構成する正極・負極の活物質と電解質の代表例

ニッケル水素バッテリーやニカドバッテリーを充電する場合、充電の進行により徐々に電池電圧が上昇、満充電付近で電池電圧はピークを迎え、その後平衡状態となります。その一方、電池温度は上昇は続きますがそれほど大きくならず、電池の大きさの割に電池容量が小さく、電解質も水溶液(不燃)であることを考えると比較的安全な電池と言えます。

これに対して、リチウムイオンバッテリーは、何の対策もなく充電を続けると、満充電を過ぎても電池電圧・電池温度ともに上昇を続けます(下図参照)。

リチウムイオン電池の過充電試験時の電圧、温度のプロファイル

小さな空間に大きなエネルギーが閉じ込められていてしかも高温、そこに有機溶媒(引火性液体)が同居していることを考えれば「充電しすぎると危険」な電池と言えます。とは言え前述のとおりエネルギー密度が高いなど、優れた特性を持つ電池であることには間違いなく、これまでさまざまな工夫が性能面・安全面でなされ現在の普及につながっています。

リチウムイオンバッテリーの二次保護思想

充放電をともなうバッテリーにはバッテリー保護のためにBMS(Battery Management System)と呼ばれる保護機能が備わっています。BMSはリチウムイオンバッテリーとデバイス(或いは充電器)の間に組み込まれ、充放電の制御を担っています。一次保護は半導体を利用して電流や電圧、温度を常に監視、電子回路的な制御で行われることが一般的で、ほとんどの異常はこの一次保護で回避できます。

しかし電子回路の保護動作も、ごくまれに半導体の異常や故障により動作しないことがあります。リチウムイオンバッテリーの場合は、異常がもたらす結果が破裂、発火など重大となるため、その万が一に備える必要から二次保護が組み込まれています。この保護思想から二次保護にはより高い確実性が求められます。

セルフコントロールプロテクター(SCP)

デクセリアルズが開発した「セルフコントロールプロテクター(以降、SCP)」は、リチウムイオンバッテリーの二次保護回路において、物理的に充放電回路の不可逆的な遮断を行うヒューズ部品です。二次保護のためのヒューズ素子である「SCP」が動作する段階では原則、一次保護であるBMSが既に正常に機能しておらず、リチウムイオンバッテリー全体としても正常な状態にはありません。充放電の制御が不安定なリチウムイオンバッテリーが動作し続けることがないよう、あえて回路を遮断し、安全に使えなくすることが「SCP」の役割です。

一般にヒューズは、回路に過大な負荷(電流)がかかった際にジュール熱でエレメントが溶断するようになっていて、回路を物理的に遮断して過電流から機器を守る部品です。しかしながらリチウムイオンバッテリーの場合、過電流だけでなく過電圧(=過充電)にも対応する必要があります。これを可能にしたのが「SCP」になります。1994年の発売以来、リチウムイオンバッテリーの二次保護用ヒューズの標準的な部品として認知され、20億個以上(2020年3月現在)を出荷しています。

以下にSCPの構造を示す概念図と等価回路図を示します。

セルフコントロールプロテクター(SCP)構造概念図

「SCP」もヒューズですのでヒューズエレメントが溶断することで回路遮断を行います。過電流に対しては一般のヒューズと同じ動作になります。ポイントとなるのは過電圧に対してで、過電圧が検知されるとエレメント下にあるヒーターに電流が流れ発熱、この熱によってエレメントが溶断され回路が遮断されます。

こちらの図と写真は、上が過電流によって切断された「SCP」、下が過電圧によって切断された「SCP」になります。

過電流保護の一例
過電圧(過充電)保護の一例

SCPの可能性とこれから

デクセリアルズは約30年前からリチウムイオン電池の保護機能に注力し、独自のSCP技術で業界をリードしてきました。この技術は、ノートブックPCの約60%〜70%に採用され、二次保護装置としてのスタンダードを築いています。

スマートフォンやタブレットなどのデバイス:
SCPは、これらのデバイスにおいて、バッテリーの過充電や過放電を防ぐ重要な役割を担っています。バッテリー寿命の延長と安全性の向上に寄与し、ユーザー体験を大きく向上させています。(詳しくは「急速充電スマートフォンに対応する二次保護ヒューズ(SCP)の技術」の記事をご覧ください)

電動工具などのパワーツール:
高い耐久性と安全性が求められるパワーツール分野では、SCPが重要な安全装置として機能します。過酷な使用環境下でもバッテリーの安全を守り、効率的な作業を可能にしています。(詳しくは「電動工具の発展の歴史とデクセリアルズの表面実装型ヒューズ『セルフコントロールプロテクター(SCP)』」の記事をご覧ください)

ドローン:
市場の拡大と技術革新が目覚ましいドローンでは、軽量かつ高効率のバッテリー管理が必要です。SCPは、ドローンの飛行時間を最大化し、同時に安全な飛行を保証するために重要な役割を果たすことが期待されています。(詳しくは「ドローンの歴史と未来——高性能化・長時間化・高電圧化とその対応技術)」の記事をご覧ください)

電気自動車や電動バイク:
電動車両の分野では、SCPがバッテリーの安全性を高め、長距離走行を可能にします。また、高電流に対応することで、急速充電の普及にも貢献しています。(詳しくは「世界に広がる「電動バイク」とその安全性(バッテリーと二次保護ヒューズ))」の記事をご覧ください)


SCPの進化は止まらず、今後も「小型化」と「高電流化」を目指して、より安全で効率的なリチウムイオン電池の開発に取り組んでいきます。また、開発の経緯についての記事(「二次保護ヒューズ(SCP)の可能性ーー過充電・過電流に対応した機能が拓く新市場」)もご用意しております。ぜひご一読ください。

デクセリアルズ社製の二次保護シリーズ
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