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「熱輻射」による放熱の仕組みと設計の注意点

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熱輻射とは何か

熱の伝わり方には大きく3つの種類があります。分子・原子・電子の粒子振動により熱が伝わる「熱伝導」、固体と流体(気体、液体)との間で熱がやり取りされる「対流熱伝達」、そして電磁波によって熱が伝わる「熱輻射」です。電子機器の熱対策においても、これら3つを効果的に組み合わせることで、速やかな放熱を実現することができます。本記事では、「熱輻射」について解説します。

真夏の戸外で感じる、焼けつくような太陽の日差し。それこそが、太陽から伝達された輻射熱になります。熱輻射の正体は、熱源が発する電磁波です。熱とは分子、原子、電子等の振動ですが、それら粒子はプラスとマイナスの電化を帯びているため、振動するとアンテナのように電磁波を照射します。振動が激しければ激しいほど、すなわち温度が高ければ高いほど、放たれる電磁波のエネルギーも強くなります。

地球から約1億5000万kmも離れた場所にある太陽の熱エネルギーは、地球上の全生物の生命エネルギーの源であるとともに、地表と大気を温めることで、雨や風などの気象現象を起こしています。それだけの莫大なエネルギーが地球に届くのは、太陽の中心が約1600万℃、表面は約5500℃というとてつもない熱を放っているからにほかなりません。

熱輻射量の計算式

熱源から輻射される熱量は、絶対温度(ケルビン)の4乗に比例し、次の式によって求められます。

輻射熱量(Q)=面積×シュテファンボルツマン定数×形態係数×絶対温度の4乗

*シュテファンボルツマン定数:すべての放射を完全に吸収する理想的な物体(黒体)から熱輻射によって放たれる電磁波のエネルギーと温度を表す比例係数。
*形態係数:熱輻射を互いにやりとりする物質同士の「面」の幾何学的位置関係を表す無次元量。

熱輻射の大きな特徴は、熱源と受熱面の間に物質が必要ないことです。「熱伝導」「対流熱伝達」は、熱源と熱を受ける物体の間に、分子や原子などの物質があることが必須となりますが、「熱輻射」の場合は電磁波によって伝熱されるため、何もない空間を超えて届くのです。

また、すべての物質は絶対零度のとき以外、分子・原子・電子の振動運動を起こしていることから、低い温度であっても熱輻射がおきています。そのため、2つの物質の間で起きる熱輻射では、両者の熱量の「差分」が温度の高いほうから低いほうへと移動することになります。

主な材料の輻射率

輻射率は、ある物体が熱を与えられたときに熱輻射によって放つ電磁波のエネルギーを表す数字です。同じ温度の黒体(現実にはない、すべての波長の電磁波をまったく反射しない理想的な物質)が放つエネルギーを1として、0〜1の間の数字をとります。

以下が、主な材料の輻射率の表になります。この表を見るときのポイントは、「輻射率は物体の表面の物性によって変化し、その物体の母材、すなわち表面より内部の物性とは無関係である」ということです。そのため、輻射率は表面を研磨・酸化処理したり、塗料などを塗ることでコントロールすることができます。

表からわかるように、アルミ・銅ともに表面を研磨したときと、酸化処理したときでは10倍以上に輻射率が上昇します。油性塗料を塗る場合、「色によって輻射率は変化するのか」というご質問を受けることがよくありますが、色は関係ありません。「黒体塗料」とは、黒体に近い輻射率を実現するために開発された塗料で、物質表面に塗布することにより、輻射率を通常の塗料よりも1に近づけることが可能になります。

低温の熱源が放つのはほぼ遠赤外線

熱輻射によって放たれる電磁波の波長は、熱源の温度によって変わります。太陽のような恒星は非常に高い温度の熱源であることから、紫から赤までの幅広い波長の可視光を放つため、全体として白い光を放っているように見えます。

しかし、電子機器のLSIなどは高温時でも200℃程度にしかならないため、放たれる電磁波の波長には可視光がほとんど含まれず、遠赤外線を中心とした輻射が発生します。そのため電子機器は、輻射される赤外光の量を非接触温度計で計測することで、温度の測定が行われます。

熱輻射と対流熱伝達の比較

電子機器の熱対策に使われるヒートシンクは、熱輻射と対流熱伝達によって放熱を実現する部品です。熱輻射と対流熱伝達が、熱伝導と異なるのは、放熱された熱が最終的に外部(空気、環境)へ出ていくという点です。条件にもよりますが、ファンなどを用いない自然対流の場合、熱輻射と対流熱伝達の放熱量は同じ程度になります。また面積が大きくなるほど熱輻射で放たれる熱量は大きくなるため、熱対策においては必ず熱輻射の量を考慮する必要があります。

一方、ヒートシンクにファンなどで風を送る強制対流の場合には、熱輻射よりも対流熱伝達による放熱の値が非常に大きくなります。下記のヒートシンクの模式図を見ていただければ一目瞭然です。このような形状の場合、対流熱伝達は赤の点線で囲った面で行われますが、輻射熱に寄与するのは、外側の青色の点線で囲った部分のみで行われています。そのため、強制対流では熱輻射の寄与率は数%程度と非常に小さくなります。

電子機器の熱対策では、本記事でご紹介した熱輻射とともに、対流熱伝達、熱伝導による放熱を組み合わせることがとても重要になります。デクセリアルズでは数々の業務を通じて豊富なノウハウを積み上げており、お客さまの放熱に関するお困りごとを適切に解決することができます。本記事に関して疑問点やご質問等がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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