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<5G基地局向け>最先端の熱伝導シート―その技術と特長

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5G基地局で採用が進む熱伝導シート

デクセリアルズが開発・製造・販売する熱伝導シートは、電子機器の内部で熱を発するIC(集積回路)などの発熱体と、ヒートスプレッダーやヒートシンクとの間の空隙を、柔らかく熱伝導率の高いシートで密着させることで、効率的に熱の放散を促す素材です。

ディスプレイやタブレットPC、自動車のコンソールパネルなど幅広い電子機器に用いられています。特に近年、需要が高まっているのが5G通信網の基地局やデータセンターのサーバー向けです。

ディスプレイやタブレットPC、自動車のコンソールパネルなど幅広い電子機器に用いられている熱伝導シート

以下の左のイラストは、5G通信基地局で用いられるミリ波アンテナモジュールの模式図です。アンテナモジュールで熱伝導シートが使われる場所は、小さなアンテナの役目を果たす整然と並んだRFIC(無線周波数集積回路)や、それらを制御するASIC(特定用途向け集積回路)、PMIC(パワーマネジメントIC)などが放熱器(ヒートシンク)と接するところになります。

従来の4G通信に比べて飛躍的な高速通信が可能になる5G通信では、回路部品の高集積化、高出力化が進んでおり、それにともなって基板の発熱量も増大していることから、より高性能の熱伝導シートが必要とされるようになっています。

5G無線通信基地局(スモールセル)における熱電動シートの使用イメージ

熱伝導シートに「高柔軟性」が必要な理由

熱伝導シートは、熱密度が高く、発熱量が大きい状況下で使用されるものであり、これらの状況に耐えられるものであることは前提としたうえで、安全かつ長く使える仕様であることが求められます。そのため、熱伝導シートには、熱輸送能力の高さを表す「熱伝導率の高さ」だけでなく、低熱抵抗を実現する「薄さ」、安全性の土台となる「電気絶縁性」、そして実装時の高さバラツキを吸収する「柔らかさ」を備えている必要があります。「高さバラツキ」とは、主に基板に実装されたICの実装高さ(実装される基板面からIC上面までの高さ)のバラツキのことを指しています。ICにはそれ自身に高さ公差があり、これに実装のバラツキが加味されたものが「高さバラツキ」となります。同じメーカー、同じ型番のICであっても製品寸法には公差があり実装高さも同じではないため、ヒートシンクなどの放熱器との隙間の間隔が異なります。熱伝導シートは、この隙間を埋める厚みがあって十分に柔らかくなければ、ヒートシンクとの間の空隙を効率的に埋めることができません。そのため「柔軟性」は熱伝導シート選定時の重要な指標の一つとなります。また柔らかければ柔らかいほど、シートを介在させたときに発生する応力が小さいため、ICや基板に機械的な負担をかけないという利点もあります。

そうした背景から、私たちは炭素繊維をフィラーとする高性能な熱伝導シートとして新たにEX20000C9S、EX10000F7、EX10000NCという3つの製品シリーズをラインナップしました(それ以外に、「高性能・絶縁タイプ」のZX11Nという製品も追加されましたが、それについてはこちらの記事で解説します)。

当社の熱伝導シートには大きく標準タイプと、熱伝導率で10 W/m・K以上を示す高性能タイプの2種類があります。

下記のグラフは当社が扱っている熱伝導シートのラインナップを表しています。縦軸に「どれだけの伝熱速度を持つか」を意味する熱伝導率(W/m・K)、横軸に「熱伝導シートの柔軟性」を示す硬度(Shore OO)をとっており、左上に行くほど「熱伝導率が高く、柔らかい」シートになります。どれぐらい柔軟なのかを別に例えると、硬度50(Shore OO)が「人の肌」程度の弾力、硬度 10〜20(Shore OO)が「マシュマロ」程度の柔らかさになります。これ以下の柔らかさになると、組み込んだ際に崩れてしまう(シート形状を保てない)可能性があり、Shore OOで10程度が現時点の柔らかさの下限となっています。

デクセリアルズ社が扱っている熱伝導シートのラインナップ

以下は、新製品の3シリーズの特性を表した表です。柔らかさでいえば、EX10000F7シリーズ、EX10000NCシリーズが「高柔軟」であるのに対し、EX200009Sシリーズは、「超高柔軟」と、とくに柔軟性に優れているとともに、熱伝導率が高いことが特長となっています。EX10000NCは熱伝導率がほか2つに比べて低いですが、フィラーとして含まれている炭素繊維が特殊な処理によって絶縁膜で覆われているため、電気抵抗を示す「体積抵抗率」が高くなっています。高性能タイプの熱伝導シートの多くは、電気を通しやすい炭素繊維をフィラーに用いているため使用場所を選びますが、EX10000NCは電気抵抗を高めることでショートリスクを低減し、より幅広い場所に使用できる製品となっています。

デクセリアルズ社製熱伝導シートの特性

製品選定のポイント

実際に熱伝導シートを選定するときには、「発熱体と放熱器の間の距離がどれぐらいか」「段差を隙間なく埋めるために、シートにどれぐらいの圧力が必要か」「圧力がかけられたシートの熱伝導率の変化はどうなるか」を検討することが必要になります。

以下の2つのグラフは、両方とも横軸にシートにかかる圧力をとっています。左のグラフの縦軸は「圧縮率」で、例えば40%だったら、圧力0のときに比べて40%厚みが小さくなっていることを意味します。左のグラフの縦軸は、単位面積あたりの熱抵抗になり、上になるほど伝熱抵抗が高くなる(熱を伝えにくくなる)ことを表します。

熱伝導シートの熱抵抗、圧縮率比較

私たちがお客さまに熱伝導シートを提案するときには、「ICとヒートシンクの間の最大・最小距離」を伺い、何%シートを圧縮すれば良いか(シートに圧力をかけられるか)を確認します。その上で、必要な熱伝導率を満たす製品を選び、推薦いたします。

放熱対策用の熱伝導シートは市場にさまざまな製品が存在しますが、現実の問題を解決するには、上記のような製品の使用条件を精緻にチェックする必要があります。製品の特性上、使用状況等によって性能が大きく変動するため、カタログの数値はあくまで参考値となります。私たちはこれまでに数々のお客さまに熱伝導シートを用いたソリューションを提供してきたことから、豊富なノウハウを持っております。熱伝導シートについての疑問やご質問があればお気軽にデクセリアルズまでお問い合わせください。

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