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熱伝導シート「高性能・絶縁タイプ」―高熱伝導・高柔軟・高信頼を共生させる技術

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絶縁タイプ熱伝導シートに革新をもたらす窒化ホウ素フィラー

デクセリアルズでは2021年、エレクトロニクスの放熱用熱伝導シートに絶縁タイプの新製品、ZX11Nシリーズをラインアップしました。ZX11Nシリーズの特長は、絶縁性を担保しながら、熱伝導シートに求められる「高熱伝導率・高柔軟性・高信頼性」という要素を兼ね備えていることです。その秘密は、従来の製品に使われてきたアルミナや窒化アルミに変わって、窒化ホウ素(BN)をフィラーとして充填する技術を、当社が独自に開発したことにあります。

窒化ホウ素フィラーの熱伝導率と電子顕微鏡写真

窒化ホウ素フィラーは小判のような形をしており、厚み方向は10 W/m・Kの熱伝導率なのに対し、面方向は200〜400W/m・Kという高い熱伝導率を示します。デクセリアルズはこの窒化ホウ素フィラーを、シートの厚み方向に対して「立てて配合させる技術」を確立することで、業界トップクラスの高熱伝導率を実現しました。

窒化ホウ素フィラーの熱伝導率と配向イメージ

高温環境での長期使用でも保たれる優れた柔軟性

ZX11Nシリーズの特長のひとつは、その優れた柔軟性にあります。熱伝導シートは、発熱体であるICと放熱器であるヒートシンクの間を隙間なく埋めて密着することで効率の良く熱を逃がす素材です。その能力を発揮するために、接触面の凹凸を埋める一定程度の柔軟性が必要となります。また、さらに高い柔軟性を持たせることで、熱伝導シートの厚みそのものを変化させ、複数のICパッケージの段差(実装高さのバラツキ)をも吸収できるようになります。

熱伝導シートは樹脂の中に熱伝導性に優れたフィラーが充填されています。フィラーをたくさん入れれば入れるほど熱伝導性は高まりますが、その分シート全体が固くなるため、熱伝導性と柔軟性はトレードオフの関係にありました。

以下のグラフはダイヤモンド、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、アルミナのそれぞれについて、Bruggemanの式より求めたシートの熱伝導率とフィラーの充填率の関係を示したものです。この図から高い熱伝導率を示すダイヤモンドでもシートの熱伝導率が10 W/m・Kを越えるには73%程度の高充填が必要であることが分かります。同時に充填率60%程度だと熱伝導率に差が生まれないことも示唆しています。つまり、柔軟性と熱伝導性を両立させることの難しさを示すと同時に、単純にフィラーの伝熱性能を高めただけでは充填率を下げられないことを示しています。今回、ZX11Nの開発に当たって60%前後の低充填でも高熱伝導を示す熱伝導シートの開発を目指しました。

Buggemanにの式より求めたフィラー充填率と熱伝導率の関係

デクセリアルズでは、熱伝導率で10 W/m・Kを越える高性能タイプとして炭素繊維をフィラーとして配向させた熱伝導シートを開発してきました。そこで培った技術を応用することで、窒化ホウ素フィラーを配向することに成功。それにより従来製品に比べてフィラーの使用量を少なくできるようになり、柔軟性と高熱伝導性の両立を可能にしました。

150℃、3000時間が経過後も柔軟性を保持

また、ZX11Nシリーズにおいて窒化ホウ素をフィラーに採用した最大の理由は、従来の絶縁性フィラー品に比べて製品の安定性、すなわち信頼性が優れていることです。以下のグラフは、ZX11Nと、高い熱伝導率を持つ窒化アルミをフィラーとして充填したシートをそれぞれ150℃の環境下におき、横軸に経過時間、縦軸にシートの圧縮率(柔軟性)をプロットしたものです。

窒化アルミは加水反応により劣化しやすい特性を持っていることから、窒化アルミフィラー品は時間の経過とともに周囲のシリコーン樹脂に悪影響を及ぼし、硬化が進んで割れてしまいました。それに対してZX11Nは、耐水性など物性に優れ、充填量を少なくできる窒化ホウ素をフィラーに用いています。その結果、高温保持による樹脂の変化で多少柔軟性は失われましたが、一定の柔らかさを保ち続け、1000時間経過後もピンセットでつまむと曲げられる弾力性を維持していました。当社はその後も実験を続け、3000時間までZX11Nの柔軟性が保たれることを確認しています。

稼働時に高温になる電子デバイスの内部では、熱伝導シートが劣化することで石膏ボードのように固くなり、伝熱性能の低下や柔軟性喪失による機械的負荷などの問題が発生することがありますが、ZX11Nを使用することでそうしたトラブルを防ぐことができるとデクセリアルズは考えています。また窒化ホウ素はアルミナや窒化アルミなどの他のセラミックフィラーに比べて誘電率が低く、電気的にも優れておりエレクトロニクスデバイスに採用する上でのメリットとなっています。

高熱伝導フィラー採用熱伝導シートの高温保管試験結果

応力が低いことでICへの負荷を低減

他にも、ZX11Nシリーズの利点として、「柔軟性が高く、組込時・組込後のICへの負荷が小さい」ことが挙げられます。以下のグラフは、縦軸に(1)圧縮応力と(2)残留応力、横軸に組込時のシートの圧縮率を示しています。黄色の窒化アルミ充填品は、シートを圧縮するに従って右肩上がりで応力が823 kPaまで上がっていき、組込後を想定した残留応力も83 kPaと高い数字を示しています。それに比べて緑色のZX11Nは、50%まで圧縮しても37 kPa しか上がらず、残留応力も7 kPaしかありません。すなわちZX11Nは窒化アルミ充填品に比べて、組込時・組込後も、IC・基板への機械的負荷が非常に小さいことを示し、放熱課題の解決だけでなく組込時や使用時の故障リスクにも配慮されていることを意味します。

熱伝導シートを介してIC/基盤が受ける応用比較(シート組込時/組込後)

シート全体で高い絶縁特性を実現

ZX11Nは、基材となるシリコーンおよび、フィラーの窒化ホウ素の両方が絶縁特性を持つため、シート全体で高い絶縁性を保持しています。そのため、ICパッケージ周辺の端子に接触することを配慮せずに使用することができます。絶縁、高熱伝導、高柔軟、高信頼性という特性を兼ね備えたこの製品は、大量の情報処理を必要とする5G通信の基地局やデータセンターでの熱対策に活用されることが期待されています。現在、デクセリアルズはさらなる本製品の改善を検討し、より高い熱伝導率を実現することを目指しています。本製品の発展にこれからもご注目ください。

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