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LCDの最新トレンドに対応 蛍光体フィルムの特性

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ディスプレイに要求される特性

ディスプレイ技術の進化、とりわけ高画質化が進むにつれて、要求される項目も多岐に渡るようになりました。下記はその項目の一部ですが、青い色をつけた項目は、有機EL(OLED)方式に比べて液晶ディスプレイ(LCD)が優れている点になります。

ディスプレイに必要な特性(指標)とは

  1. 画像に迫力がある(輝度、暗所コントラスト、色域)
  2. 被写体を忠実に再現している(輝度、暗所コントラスト、解像度、色域、応答性)
  3. どこから見てもきれいに見える(視野角特性)
  4. どんな場所で見てもきれいに見える(明所コントラスト)
  5. 長期間使用できる(寿命・信頼性)
  6. 環境に優しい(効率・消費電力)
  7. 扱いやすい(厚み、サイズ、重量)
  8. 安い(コストおよび生産性)
ディスプレイに必要な特性(指標)イメージ

「黒をきれいに表現」する部分駆動技術

一方の有機ELディスプレイは、赤緑青に光る有機発光ダイオード(OLED)を組み合わせた一つひとつの画素が、それぞれ発光することで全体としての映像を作ります。そのため、光らせる場所と光らせない場所を分けることができ、「完全な黒」を表現することができます。

その「暗所コントラストに優れている」というOLEDのメリットに対抗するため、最近では液晶ディスプレイでもバックライトに「部分駆動(Local Diming)」という方式が採用されるようになってきました。部分駆動とはその名の通り、液晶のバックライトをエリアごとにオン・オフすることを指します。

従来の液晶ディスプレイは、両端または上下からバックライトを常時光らせ、液晶のフィルターを閉めることによって黒を表現していました。しかしその方式の場合、どうしてもフィルターから漏れる光が発生することから、黒い部分がぼんやりと光って見えてしまう現象が液晶ディスプレイの課題となっていました。部分駆動は、その液晶ディスプレイの弱点を克服するために生み出された手法と言えるでしょう。

蛍光体フィルムの部分駆動における課題

デクセリアルズの蛍光体フィルム「PSシリーズ」は、液晶ディスプレイのバックライトに青色LEDを用いるとともに、そのLEDから放たれる青い光を、フィルムに含まれる蛍光体の働きによって白色光に変える素材です。暗所コントラストの改善と消費電力の低減を実現するとともに、直下型LEDバックライトの光源に白色LEDを用いた液晶ディスプレイと比べて薄型化できます。

このようなメリットがある一方で、蛍光体フィルムを採用した部分駆動タイプの薄型液晶ディスプレイでは、「蛍光体から全方位に放出される一部の緑と赤の光が、リフレクターで反射してしまう」という問題が起こっていました。以下のイラストのように、点灯しているLEDの上部にある蛍光体フィルムから下斜め向きに放出された光が、LEDが発光していない(黒い)領域に飛び込み、そこにある蛍光体を励起して、わずかに黄色く光らせてしまう現象が発生したのです。

部分駆動(ローカルディミング)時の蛍光体フィルムの挙動と直下型LDE型バックライトの断面構造イメージ

ダイクロイックフィルターが余分な光をカット

その問題を解決するのが「ダイクロイックフィルター」と呼ばれる素材になります。デクセリアルズの蛍光体フィルムに使用されているダイクロイックフィルターは、青い光は透過しますが、緑と赤の光は完全に遮断(反射)する性質を持っています。以下のイラストのように、蛍光体フィルムの下にダイクロイックフィルターを挟むことで、斜め下向きの散乱光がカットされ、黄色い光を封じ込めることが可能となります。また、ダイクロイックフィルターがない場合は、斜め下向きの緑と赤の光の一部がリフレクターに吸収されることにより輝度を損失しますが、ダイクロイックフィルターがほぼ全ての緑と赤の光を上方に反射させるので、リフレクターによる輝度損失をなくすことができます。

私たちの計測では、ダイクロイックフィルターを蛍光体フィルムと組み合わせることによって、暗所エリアの色づきが10分の1に抑制されるとともに、明所エリアの輝度が8〜30%向上することが確認できました。

ダイクロイックフィルター導入後の部分駆動(ローカルディミング)時の蛍光体フィルムの挙動と直下型LDE型バックライトの断面構造イメージ
ダイクロイックフィルターの役割

粒子の小径化で蛍光体フィルムの色ムラを抑制

LCDに蛍光体フィルムを採用する際、問題となりうるのが画面の「色ムラ」「ザラつき」の発生です。蛍光体フィルムにおいて発光しているのは蛍光体そのものになります。蛍光体の周辺の樹脂は光りませんし、蛍光体の粒子の大小でも発光の強さが変化します。こういったものが「色ムラ」や「ザラつき」につながります。以下は横軸に蛍光体の粒子の大きさ、縦軸に「ザラつき」の度合いをとったグラフになります。青い四角は、蛍光体フィルムの拡大写真です。粒子径が小さいフィルムであるほど、画面がなめらかでザラつきが少ないことがわかります。

硫化物緑蛍光体の画面色ムラと蛍光体粒子径の関係

このように、蛍光体の粒子が小さければ小さいほど、「色ムラ」や「ザラつき」は抑えられますが、一方で小径化することで別の問題も発生します。小径化にともない表面積が増えることで、元来水に弱い蛍光体が水分と結びつきやすくなり、長期信頼性(主に温熱耐性)が低下してしまうのです。

硫化物緑蛍光体の温熱耐性と蛍光体粒子径の関係

この信頼性低下の課題を解決するために検討した結果、以下の図のように粒子表面を保護膜で覆うことによって、長期信頼性の確保に成功しました。

硫化物緑蛍光体の小径化における信頼性低下課題への取り組み

車載用ディスプレイ、ゲーミングモニターへ応用

ここまで述べたように、私たちデクセリアルズは蛍光体フィルムを用いることで、液晶ディスプレイの画質向上に寄与するさまざまな技術を開発してきました。

現在、蛍光体フィルムは薄型化が求められるタブレットPCやノートパソコンなど中小型の液晶ディスプレイへの採用が進んでいますが、私たちが次の市場として考えているのが、車載用ディスプレイとゲーミングモニターです。車載用ディスプレイに求められる長期信頼性や、高コントラスト・高輝度の実現に、蛍光体フィルムを活用することができます。

一方で、現在、デクセリアルズが開発する蛍光体フィルムには、応答性がそれほど良くないという課題があります。部屋の蛍光灯を消したあと、暗い中でしばらくぼんやりと残光が見えることがありますが、蛍光体フィルムの蛍光体も同様に、LEDが消灯しても直ぐに発光はなくなりません。エッジライトと呼ばれる方式では、基本的にLEDは常時点灯しているためあまり問題になりませんが、部分駆動を採用する液晶ディスプレイでは、映像シーンに合わせて頻繁にLEDのオン・オフが行われ、蛍光体フィルムにも相応の応答性が求められます。我々は応答性の課題を、新しい蛍光体を用いることで解決したいと考えています。その課題が解決できたあかつきには、より速い応答性が求められるゲーミングモニターなどへの応用が考えられます。

デクセリアルズではこれからも光を操る蛍光体の技術に力を入れてまいります。ぜひご期待ください。

デクセリアルズが開発する蛍光体フィルムの応用展開
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