- 光学関連
液晶ディスプレイの画質を向上する「蛍光体フィルム」の基礎知識
目次
高解像ディスプレイに使われる直下型LEDバックライト
近年、ディスプレイは4K、8Kに対応した製品が続々と発売されており、高解像化の一途をたどっています。また解像度だけでなく、高輝度化・高コントラスト化・広色域化も同時に進んでおり、高画質化の流れはとどまるところを知りません。
そのような背景から液晶ディスプレイへの採用が広がっているのが、明暗を制御しやすい「直下型LEDバックライト」です。直下型LEDバックライトは、左下のイラストのように、パネル全体に光源となるLEDを配置します。直下型LEDバックライトにおいては、画像に対応させてLEDを個別に発光させる「部分駆動(Local Diming、ローカルディミング)」という制御が行われます。右下の一般的な液晶ディスプレイに採用されている「エッジ型」(画面の左右もしくは上下にLEDを配置)に比べて、直下型は必要なLEDのみ発光させることにより消費電力を削減することができます。また一つひとつのLEDの発光を制御できることから、映像の明るい場所は明るく、黒い場所はより黒く、ダイナミックレンジを広げることが可能となります。
一般的に、直下型LEDバックライトの光源には、単体で白い光を発する「白色LED」が使用されます。白色LEDは、単体で白色の光が取り出せるというメリットがありますが、LEDの発光具合に大きな個体差があり、精密なコントロールが難しいという課題がありました。
青色LEDの青い光を「白色」に変換するフィルム
このような背景から開発されたのが、2021年4月にデクセリアルズが製品化した、蛍光体フィルム「PSシリーズ」です。蛍光体フィルム(PSシリーズ)は、液晶ディスプレイの内部に使用されるフィルム素材です。ディスプレイの光源であるバックライトユニット(BLU)に、白色LEDではなく発光のばらつきが少ない青色LEDを使用することを想定し、青色LEDが発する青い光から、白色の光を取り出すために使われます。
その蛍光体フィルム(PSシリーズ)が、具体的にどこに搭載されているかについて解説します。以下のイラストは、液晶ディスプレイ内部の光学フィルムや偏光板の模式図です。蛍光体フィルムは、この図では右から2番目、拡散板の次に位置づけられます。
直下型LEDバックライトが発した青い光は、拡散板の次に蛍光体フィルムを通ることで白い光に変化し、偏光板・TFT・液晶によって明暗が整えられ、カラーフィルターで色がつけられたあと、最終的に私たちの目に映像として飛び込んできます。
白色LEDの仕組みと蛍光体フィルムの使用メリット
それでは、蛍光体フィルムは、青色LEDの光からどのようにして白色の光を生み出しているのでしょうか。ご存知のように、光の色は「三原色」と言われるR(赤)、G(緑)、B(青)の光を混ぜ合わせることで、あらゆる色に変化させることができます。RGBの成分それぞれが概ね等しい強さのとき、その光は「白色」になります。
以下の図は、白色LEDおよび青色LEDを用いた直下型LEDバックライト搭載液晶ディスプレイの模式図です。左の白色LEDは、青色LEDチップが緑色と赤色の蛍光体が入った樹脂のキャップで覆われた構造となっています。その蛍光体に青い光がぶつかると緑と赤の光が放出されます。蛍光体にぶつからず、そのままLED外部に出る青い光は、緑と赤の光と混ざり合って、全体として白い光が放出されます。これが白色LEDの仕組みですが、白色LEDは小さな樹脂キャップ内部の蛍光体の大きさや位置が必ずしも定まっていないことから、どうしても個体差が大きくなり、光り方にムラが出やすいという弱点があります。
一方、フィルムの中に緑色と赤色の蛍光体が均一に分散された樹脂層が均一な厚みで組み込まれている蛍光体フィルムは、青色LEDの光を均一な強さで白色へと変換することが可能となっています。蛍光体フィルムを用いれば光源に青色単色のLEDを使用できるため、白色LEDを光源に用いたときに比べて、光のムラが少なくなります。また、白色LEDのように発光の個体差が大きい場合には、隣り合うLEDからの光と重ね合わせて光ムラを小さくするために光源と拡散板の距離をある程度保つ必要がありますが、青色LEDの場合は個体差が小さいため拡散板までの距離をより近づけることが可能になり、ディスプレイ全体の薄型化に貢献できるのも大きなメリットです。
蛍光体フィルム「PSシリーズ」の特長
デクセリアルズの蛍光体フィルム「PSシリーズ」の特長は、緑色の蛍光体に当社が独自に開発した硫化物蛍光体を使用していることです。
一般的に緑色の蛍光体には窒化物が使われていますが、取り扱いは難しいものの発光特性に優れる硫化物を用いることで、従来の蛍光体よりもシャープなPL(Photo Luminescence、フォトルミネセンス)スペクトルを実現しました。以下のグラフは、当社の硫化物緑蛍光体と、一般的な窒化物緑蛍光体(β-sialon、ベータサイアロン)が光を当てられたときの発光強度を縦軸、波長を横軸にとっています。当社硫化物緑蛍光体のグラフのほうが横幅が狭く、緑色の光の波長を示す550nmにより尖ったピークを描いていることがわかると思います。それはつまり、当社の蛍光体のほうが「シャープ」(鮮やか)な緑の光を発することを意味しています。
蛍光体フィルム「PSシリーズ」を用いたディスプレイによって、人間が認識できる色がどれくらい再現できるか、その幅を図式化したのが以下の「色域」図になります。釣り鐘のような形をした緑と青と赤の領域は、人の目が認識できる色の範囲全体を示しています。「NTSC」と「sRGB」の三角はそれぞれ国際機関が定める、ディスプレイなどを設計する際の色域の規格になります。そしてオレンジ色の三角で囲った範囲が、蛍光体フィルム「PSシリーズ」を使用したディスプレイで再現できる色の範囲となります。
以下の表で示したとおり、蛍光体フィルム「PSシリーズ」は従来の白色LEDを使用した場合に比べて、NTSC面積比で最大114%と広い色域での再現が可能となっています。また同時に相対輝度も104%と向上しています。
直下型LEDバックライト搭載の液晶ディスプレイは、高画質を標榜するハイエンド向けのタブレットやノートPCで採用が広がっており、今後ますます需要が拡大していくと予想されます。私たちデクセリアルズは蛍光体フィルム「PSシリーズ」を提供することで、トレンドに貢献していきます。
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