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存在に気づかないほどの透明度の高い反射防止フィルムができるまで -微細構造を形成する最新技術とは-

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「蛾の眼(モスアイ)」から生まれた高透明フィルム

デクセリアルズはこれまでに、エレクトロニクス分野を中心に数々の新しい機能性材料やデバイスを開発してきました。その一つが微細構造を利用した反射防止フィルムです。

蛾の眼の表面には、可視光の波長(380nm〜780nm)よりも小さい突起が規則的に並んでいます。この小さい突起の先端付近は、蛾の眼に入ってくる光にとってあたかも存在しないように見えています。主に夜間に活動する蛾にとって、眼での外光反射は外敵に見つかるリスクを高めます。同時に夜のわずかな月明かりの中でも障害物にぶつからずに活動するために、この眼の仕組みを進化の過程で獲得したこと考えられています。

デクセリアルズが開発製造する反射防止フィルム モスアイタイプは、この微細構造をフィルム表面に形成した製品です。従来のフィルムよりも圧倒的に低い外光反射率、高い光透過性が特長で、低反射であるためディスプレイの反射防止や医療用シールドなどさまざまな分野で活用されています。以下でその製造方法について見ていきましょう。

ブルーレイディスク向け技術を応用

モスアイ構造をフィルム上に形成するにはいくつかの方法があります。多くのメーカーが採用しているのが「陽極酸化法」という手法です。陽極酸化法はアルミ製の板を酸性の液体に浸し、電気を流すことで起こる化学反応を利用して、板の表面全体に数多くの微細な穴を自然形成します。そのアルミ板に樹脂フィルムを貼り合わせると、穴の部分に樹脂が入り込み、突起が形成されるという仕組みです。

それに対して私たちデクセリアルズは、前身のソニーケミカル時代から蓄積したブルーレイディスクの製造に用いられる技術を応用することで、モスアイ構造に代表される微細構造を成形する方法を独自に開発しました。

ブルーレイディスクやDVDに代表される光学ディスクは、その表面にある小さな連続する凹み(ピット)によって情報を記録しています。このピットは、表面に凸形状の構造を持つ原盤を使って形成されます。微細構造を持つ反射防止フィルムの製造においても、まず形状転写の版となる円筒(ロール)原盤を準備します。

デクセリアルズではロール状の材料にレーザー描画によるリソグラフィー技術を用いて微細な凹凸を規則正しく配列した「マスターロール」と呼ばれるロール原盤を製作しています。

ここでは、微細構造フィルム用のマスターロールの製作について説明を行います。マスターロールは、ロール材料を回転させながらレーザー光をロールの軸方向にスライドさせパターンを刻んでいきます。レーザーの位置と移動は独自に開発した機構によりナノ単位の精度でコンピュータ制御されていて、事前に設計データを作成しておくことで自由度の髙いパターンを刻むことができます。

次の工程では、凹凸の微細構造が形成されたマスターロールを用いて、マスターロール表面の凹凸と逆の形状をフィルム上に転写していきます。ベースフィルムの表面にUV硬化型樹脂を塗布し、回転する原盤に密着させながら紫外線を照射していくと、瞬時に樹脂が固まってフィルム表面にモスアイ構造などの微細構造が形成されます。この技術は「ナノインプリント」と呼ばれています。

自由度の高いパターン設計が強み

先に紹介した陽極酸化法は、おおよそ同じ大きさの微細構造をある程度効率よく並べることは出来ますが、原理的に微細構造原盤のピットの大きさや形を自在にデザインすることはができません。これに対してデクセリアルズの微細構造形成技術は、数値化された設計情報に基づいて正確かつ連続的に意図した形状で微細構造のパターンを原盤上に形成することが可能で、私たちデクセリアルズの最大の強みとなっています。

また、デクセリアルズでは、本技術のコアな部分であるリソグラフィー、ナノインプリントの技術を独自に開発、光学薄膜では達成が難しい広帯域での優れた反射防止性能と高い光透過性を兼ね備えた高機能フィルムの製品化に成功しています。

本稿では、主にものづくりの観点から説明をしてきましたが、光学設計という観点では、求められる機能・性能に最適な形状を見出す能力も欠かせません。当社ではもの作りだけでなく、光学シミュレーションなどの光学設計にも力を注いでいます。

フィルム表面を微細構造にすることで光学的に新たな機能を付与する試みは、モスアイ構造以外にもさまざまな研究が行われています。私たちはこれからも、その応用可能性を探求していきます。

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