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急速充電スマートフォンに対応する二次保護ヒューズ(SCP)の技術

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スマートフォンの急速充電とリチウムイオンバッテリー

近年、5G通信への対応など、スマートフォンの性能が向上するのにともない、搭載されるリチウムイオンバッテリーの大容量化が進んでいます。電池が大容量化すると、充電に必要な時間も長くなることから、従来よりも大電流を流すことで急速に充電できるスマートフォンが各社から販売されるようになっています。

5〜6年ほど前のスマートフォンは満充電するまでに3〜4時間ほどの時間がかかるのが普通でしたが、最新の急速充電対応スマートフォンには、30分程度で満充電できるモデルもあります。そうした大容量化、急速充電に対応すべく、スマートフォン用リチウムイオンバッテリーの安全対策用の二次保護回路にも、新しい技術が求められるようになりました。

二次保護回路用ヒューズの方式、SCP(セルフコントロールプロテクター)とFET(電界効果トランジスタ)

一般のスマートフォンのリチウムイオンバッテリーの保護回路に使われることが多いのが、保護ICとFET(電界効果トランジスタ)を組み合わせた保護回路を二重で使う手法です。FETは電圧を検出するICに繋がれており、ICが基準を越える電圧を検出したら、充放電回路にながれる電流を遮断します。下の図の左のような回路の場合、一次保護となるFET①は4.4V、二次保護となるFET②は4.5Vといったように、少しだけ遮断する電圧の閾値をずらしておき、そうすることで二重の保護を実現するという仕組みです。

2対のFETによる保護回路とSCPを組み込んだ保護回路の例

二重FET方式は大手スマートフォンメーカーをはじめ、広く採用されています。しかし、従来型の二重保護に使われるFETは抵抗値がおおよそ2mΩで、その数値より抵抗値を大きく下げるにはサイズを大きくするなどの対応が必要です。平常時、ヒューズ素子は回路上の電気抵抗(ヒューズ抵抗と表現されます)とみなされます。このため、抵抗値が小さいほどエネルギー損失が小さく、逆に抵抗値が高い=発熱が大きい(熱くなる)と言え、発熱を抑えるという意味からも低抵抗が望まれています。

他方、同じ仕組みで動作するFETを二重で使う方式は、保護の”厚み”という点では優れていますが、動作のしくみが同じですので、対応できない事象が発生した際にともに動作しない可能性があります。保護の確実性を上げることを考えれば、一次保護と二次保護は異なる仕組みで動作することが安全性・信頼性上望ましいです。

そこでFETに代わって、二次保護回路用のヒューズ素子として採用が増えてきたのが、デクセリアルズの開発した低抵抗SCP※です。急速充電のスマートフォンは、充電時の発熱を抑えるために回路に使う部品の抵抗値をなるべく下げてエネルギー損失を小さくする必要があります。SCP「SFJ-0422U」のヒューズ抵抗値は0.9mΩと弊社の小型機器向けSCPの中で最も小さく、二次保護で使われる一般的なFETの半分以下を実現したことから、多くの急速充電タイプのスマートフォンに採用されるようになりました。

※SCPは、1994年にデクセリアルズの前身であるソニーケミカルが販売を始めたリチウムイオンバッテリーの二次保護用のヒューズ素子で、これまでに多くのリチウムイオンバッテリーを用いた機器に搭載されています。

SCP(SFJ-0422U)の印可時の表面温度の変化

上図は、評価基板に実装したSCPの電流の増大にともなう温度の上昇を示しています。0.2Aから5.0Aまで電流を上げていったとき、デクセリアルズのSCP「SFJ-0422U」は、5Aまで増やしても抵抗値は0.9mΩのままほとんど変化しません。そのため、ジュール熱によって温度は上昇するものの上昇は緩やかで+11℃の上昇に止まりました(※温度については周囲の環境の影響を大きく受けるため参考値となります)。
スマートフォンメーカー各社は、長時間触っていても低温火傷などの健康被害を起こさないために、規定の温度を超えないように設計しています。そのため、使用する部品についても発熱しにくいものが選ばれ、低抵抗SCPは温度上昇の抑制と電力消費の抑制の両方に貢献しています。

サイズにもアドバンテージ、2億台に採用

スマートフォン向けリチウムイオンバッテリーにおけるSCPの実装イメージ

上記の図は、スマートフォン向け小型低抵抗SCPのスタンダード製品である「SFJ-0412S」がどのようにリチウムイオンバッテリーに組み込まれるかを示しています。スマートフォンの場合、スペースに限りがあり保護回路モジュールにも小型化が求められます。図に示したように多くの場合、モジュール基板は細長いため、「SFJ-0412S」は実装部の製品幅(短辺)が3mmと省スペースであることも高く評価されました。2020年11月現在ですでに累計で2億個以上出荷(2020年現在)、多くのスマートフォンのリチウムイオンバッテリーに搭載されています。また、さらに小さな「SFR-0412x」(短辺 1.8mm)を開発し、保護回路モジュールの小型化に対応しています。

急速充電対応のSCP(SFJ-0422U)

デクセリアルズが急速充電に対応したスマートフォンに採用が進む低抵抗SCPを開発した背景には、数年前にお客さまから、「ノートパソコン用のリチウムイオンバッテリーの保護回路と同様の優れた仕組みをスマートフォンでもで使えるように、より抵抗値の低いヒューズを作れないか」とのお声がけをいただいたことがきっかけでした。当時、私たちも低抵抗でサイズの小さなSCPのニーズが高まっていると感じていたことから、開発に踏み切り、先に紹介した「SFJ-0422U」を開発、市場投入しています。

急速充電に対応するためにヒューズ抵抗の低抵抗化とスマートフォン用途を前提とした小型化を同時に実現するのは、技術的に難しい課題です。ヒューズエレメントの電流路断面積を増やすことで低抵抗化はできますが、反対にエレメントが大きくなり小型化ができなくなります。特にスマートフォンのように部品の高さに制限がある場合は、横方向に広げるしかなく、実装面積の増大に直結します。小型化はそれとは逆に電流路断面積が小さくなりヒューズ抵抗の上昇を招きます。当社は、さまざまな工夫を行うことでこの課題を解決しました。この課題は今回がゴールではなく、今後も引き続き取り組んでいくべきテーマと認識しています。

以下に今回登場したSCP(SFJ-0412S、SFJ-0422U)の製品情報を記します。

スマートフォン向けリチウムイオンバッテリー用SCP(一部)の製品情報

最後にまとめると、SCPとFETの二次保護素子としての大きな違いは「回路の遮断機能」になります。スマートフォンのバッテリーにトラブルが起きたとき、保護ICが電圧異常を検出してFETを使って回路を遮断しますが、それは一時的なもので、電圧が正常範囲にもどれば再び充放電が可能となります。一方でSCPは異常な過電圧や過電流のトラブルがバッテリーに起こった場合、ヒューズエレメントの溶断により、二度と回路がもとに戻ることはなくなります。二次保護素子に求められる機能は万が一のリスク回避です。一度トラブルが起きたバッテリーは予防的に再度使えなくするほうが安全です。

実際、現在でもリチウムイオンバッテリーに関係する事故が報道されています。デクセリアルズではリチウムイオンバッテリーの安全面からもSCPの開発、製造、販売に取り組んでいます。スマートフォン向けのリチウムイオンバッテリーを設計される際には、当社SCPの採用をぜひご検討ください。

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