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鉛フリーを実現、リチウムイオンバッテリーの環境負荷を下げるSCPの新技術

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ヒューズエレメントに「高融点はんだ」系の素材を使用してきたSCP

当社のSCPは、リチウムイオンバッテリーの充放電を制御している一次保護が正しく機能せずに過電流・過電圧が発生した際、ヒューズエレメントを溶断させて回路を遮断する二次保護用のヒューズです。1994年の上市以来、ノートPCをはじめ、スマートフォン、電動工具、電動バイクなど、リチウムイオンバッテリーを使用する機器に幅広く採用されています。

「SCP」は、一部の製品を除き回路基板に直接実装して使用する表面実装型のパッケージで提供されています。これは、当初のターゲットがコンパクトデジタルスチルカメラなどの小型製品用電池だったため小型化を優先し、部品実装にも実装効率の高い「リフローはんだ付け」技術を採用したためです。そのため「SCP」を構成する材料はこのリフロー工程の熱に耐える必要があり、内部のヒューズエレメントは230~260℃の熱がかかっても溶けない融点を持つ必要がありました。一方で、ヒューズエレメントは過充電検出時のヒーターの熱で速やかに溶断して欲しいことから、部品実装時の熱(260℃)に耐えるギリギリの融点を持つことが望まれます。この2つの要件を満たす材料として、「SCP」では高融点はんだを主成分とする材料をヒューズエレメントとして採用しています。

この高融点はんだには「鉛」が含まれています。非常に優れた性能をもつ材料のため代替が難しく、欧州における特定有害物質の使用制限を定める「RoHS指令」においても使用制限の適用除外となっています。しかし、世の中の潮流を考えればいずれは「鉛フリー」を実現する必要があり、大きなイノベーションが求められていました。

「鉛フリー」が世界の産業の潮流に

その課題とは、大きく分けて二つ。それぞれについて詳しく見ていきます。

鉛は地球上に豊富に存在し、他の金属に比べて低い温度で溶融することから、安価で加工しやすいという特長があります。それゆえ鉛は古代からさまざまな用途で産業利用されてきましたが、一方で鉛には毒性があり、食べ物や水などを通じて人体に蓄積すると、健康被害を及ぼす危険があることも知られてきました。そのため近年では、鉛による土壌や河川、海の汚染を防ぐため、多くの企業が「鉛の使用量削減」「鉛フリー」の取り組みを行っています。

RoHS指令では、鉛の含有率が重量で85%以上の高融点はんだ、電気電子部品に使用されるガラス・セラミック・鉛の複合材料などは適用除外となっています。そのため「SCP」は現在にいたるまで規制対象とはなっていません。

しかし今後、鉛使用に対する規制はますます厳しくなっていくことが予想され、企業もより環境に配慮した部品や材料の調達に力を入れることは間違いありません。これが一つ目の課題です。こうした時代背景に対応するため、私たちは「鉛フリー」ヒューズエレメントの開発に踏み切ることにしました。

SCPの大電流対応の足かせになった高融点はんだ系ヒューズエレメント

環境に対する悪影響とともに、鉛使用のヒューズエレメントにはもうひとつの大きな課題がありました。それは鉛が電気を流しにくい、すなわち「抵抗率が高い金属」であることです。抵抗率が高い金属ほど、電流が流れたときの発熱量は大きくなります。ヒューズという部品は、自身に電気が流れたとき発生する熱(ジュール熱)で溶断されることにより機能を発揮します。つまり鉛製のヒューズは発熱しやすいため、大電流を流すと切れやすくなってしまうのです。

電動バイクなどに使用されるリチウムイオンバッテリーは大電流化が進んでおり、それに対応するSCPにも「大きな電流が流せる」ヒューズエレメントが必要となります。鉛よりも低い抵抗率の素材でヒューズが作ることができれば、従来と同じ電流をより小さなサイズで流すことと、従来と同じサイズでより大きな電流を流すことの両方が可能になります。すなわち、SCPの小型化と大電流対応が実現できるのです。

錫合金と銀めっきの組み合わせで技術革新

以上に挙げた「鉛フリー化」「低抵抗化」という2つの難しい課題を解決するために、私たちが編み出したのが「ヒューズエレメントの母材を融点217℃の錫合金で作り、それを融点962℃の銀でめっき被覆する」という手法でした。

この方法で作成されたエレメントは、リフローはんだ付け工程の際に母材の錫合金は溶けますが、被膜されている高融点の銀が容器のはたらきをしてエレメントの形状は保たれます。しかし、エレメントが約300℃以上に温められると、溶けた錫合金と銀めっきとの界面で、固体金属が自身の融点以下の温度で溶融金属側に溶け出す「溶解現象」が発生します。

この現象を利用することで、銀の融点(962℃)よりも大幅に低い温度でヒューズエレメントを溶断することが可能となり、鉛フリー対応のSCP実現に向け大きく前進しました。

低抵抗化により新たな製品の可能性を拓く

新たに開発したヒューズエレメントは、鉛フリー化と同時に「低抵抗化」も達成しました。鉛を含有する高融点はんだ系合金の抵抗率は21μΩ・cmですが、銀めっき錫合金を構成する錫は11μΩ・cmと低く、銀はさらに1.6μΩ・cmと極めて電気を通しやすい金属です。この錫と銀めっきを組み合わせたことで、ヒューズエレメント全体の抵抗率は7μΩ・cmとなり、従来の約3倍の電流を同じサイズで流すことが可能になりました。

デクセリアルズはヒューズエレメントの鉛フリー化に加えて、セラミック基板の材料構成を見直すことで、SCP全体の鉛フリー化を実現しました。また、これら技術により、急速充電対応のスマートフォンやドローン、電動工具などの大電流が必要な機器に対応する「SCP」の開発に成功し、特許を取得しました。鉛フリー化・低抵抗化を達成した「SCP」はすでに販売されているさまざまな製品に採用されています。

これからも私たちは蓄積してきた技術と知見を活かし、より地球環境への負荷を低減するとともに社会のニーズに対応する製品の開発を進めていきます。

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