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電動工具の発展の歴史とデクセリアルズの表面実装型ヒューズ「セルフコントロールプロテクター(SCP)」

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人類の歴史とともにあった「工具の進歩」

「ドリルを買いにきた人が欲しいのはドリルではなく『穴』である」というのは大変有名な言葉ですが、人類の歴史において、人々は常に何かしらの道具や工具を使って、身の回りのものを作ってきました。のこぎりで木を切ったり、ドリルで穴を開けたり、釘を打ち付けたり……、家や家具など、さまざまな暮らしに役立つ製品を作るのに欠かせなかったのが、「工具」です。人類が産業を大きく発展させてきた背景には、工具の大きな進化がありました。

この記事では、電動ドリルの発明から最新の「スマート電動工具」登場に至るまでの歴史を解説するとともに、電動工具のコードレス化によって求められるバッテリーの大容量化とその安全性について解説します。

「電動ドリル」の歴史——世界初は約130年前に誕生

古来、板や穴を開けるために使われていた工具が「ドリル」です。当初は歯車などを利用した手回しで穴を開けるハンドドリルが一般的でしたが、1889年にオーストラリアのメルボルンで、世界最初の電気ドリルがアーサー・ジェームス・アーノット(Arthur James Arnot)とウィリアム・ブランチ・ブレイン(William Blanch Brain)の手によって生み出されました。

電動ドリルは、発明当時はドリルを取り付け、回転させて木材や金属に穴をあける専用の電動工具でした。その後さまざまな機能が本体に追加され、先端に取り付ける工具にもバリエーションが増えていったことで、穴あけ・締め付け・ゆるめ・研磨・研削などの各種作業が可能となっていきました。

電動ドリルの進化において大きな契機となったのが、1916年にアメリカの世界最大手電動工具メーカーが「ピストルグリップ」をデザインに応用し、特許を取得したことです。それまで二人で操作しなければならないほど大きかった電動ドリルですが、ピストルグリップデザインによって小型化し、トリガーを押している間だけスイッチが入る工具になりました。当時、機械加工といえば、大型かつ据置の固定機械で作業することが一般的でしたが、ピストルグリップ採用のドリルは気軽に持ち運びができることから、革新的な発明となりました。このトリガースイッチ式の電動ドリルの設計思想が現在の電動工具の礎になっています。

1946年には世界初の家庭用電動ドリルが発売され、DIY(Do It Yourself)を合言葉に、日曜大工の文化がアメリカに浸透していきました。そうしたブームを背景に、上記の電動工具メーカーは1951年までに100万台のドリルを販売しています。ちなみに日本では、大手電機メーカーが1935年に国産第1号となる電動ドリルを開発・販売しました。

コードレスドリルの発明とリチウムイオンバッテリー搭載工具の登場

アメリカの最大手電動工具メーカーはその後、1961年にニカドバッテリーを搭載した世界初の「コードレスドリル」を開発し、販売を開始します。コードレスドリルは充電式の二次電池(バッテリー)で駆動する電動ドリルのことで、「充電ドリル」とも呼ばれています。電池を搭載した工具はその後、続々と開発され、電動芝刈り機、コードレスハンディクリーナー(掃除機)、ハンドソー、バッテリー式ポリッシャーなど、さまざまなハンディタイプの工具や機器が販売されていきました。

現在、電動工具の主たる動力源となっている「リチウムイオンバッテリー」を最初にコードレスドリルに採用したのは、アメリカの別の電動工具メーカーでした。2005年、リチウムイオンバッテリー搭載の電動工具が世界で初めて発売されて以降、他の工具もニカドバッテリーからリチウムイオンバッテリーへと次々と置き換わっていきました。現在では、締結・切断・研磨・穴あけなどが求められるほぼ全ての現場作業で、リチウムイオンバッテリー搭載の電動工具を使用することが当たり前となっています。

各国の電動工具メーカーが開発・販売する製品も、定置型・電源コード式からリチウムイオンバッテリー・充電式の電動工具が主流となり、製品ラインナップが一新されることになりました。大きなヒットとなったのが、電池パックをスライドさせて着脱できる製品です。電動工具にとって電池パックのスライド式構造の利点はいくつもあり、グリップのスリム化や接触の安定性、強制冷却の最適化など、大きな革新がもたらされました。

電動工具は、電圧が大きいとトルク(ねじりの強さ)が強くなることから、当初は12Vだった工具の多くは14.4Vにパワーアップしました。またリチウムイオンバッテリーは当初、14.4Vで3.0Ahが採用され、その規格の時代がしばらく続きましたが、2010年頃からリチウムイオンバッテリーの高電圧化が進み、近年では6.0Ahのリチウムイオンバッテリーを採用する工具も発売されています。

また、バッテリーの高性能化によって充電時間も短縮されました。以前は数時間の充電を必要としましたが、近年の製品の多くは、15分〜30分程度の短時間で充電が可能になっています。電動工具メーカーは工具外側の筐体と制御基板を開発しており、電池は電池メーカーから購入しています。そのため電動工具の電池の性能自体には、メーカー間で大きな違いはありません。

高電圧化する電動工具

上記のように近年、電動工具は高電圧化が進んでいます。特に欧米メーカーはバッテリーの大容量化および高出力化を進めるために、バッテリーパックに多くのセルを搭載する傾向にあります。しかし、バッテリーパックのセルの本数を増やすと、それにともなってバッテリーパックのサイズも大きくなるため、電動工具に求められる「取り回しの良さ」は損なわれることになります。

ほぼ全ての電動工具は、「18650」と呼ばれる汎用サイズのリチウムイオンバッテリーを使用しています。このセルは電池1本当たりの電圧が約3.6Vのため、セル全体では必ず3.6Vの倍数の電圧のバッテリーとなります。電動工具ではパワー、サイズともにバランスの良い、4本のバッテリーセルを直列につないだ14.4Vか、5本のバッテリーセルを直列につないだ18Vがよく使われています。以下は、それぞれのバッテリーパックの特長の比較です。

14.4Vと18Vのバッテリーパック比較

14.4V18V
3.6Vセル本数4本5本
重量やや軽い重い
サイズ・取り回しやや小さく取り回ししやすいやや大きく取り回ししにくい
連続作業などの重負荷作業での作業性モーターが発熱しやすく、加熱保護などで停止することがある。モーターが発熱しづらく、作業性に優れる。
作業時間短い長い
コスト安い高い

最近では14.4Vバッテリーから18Vバッテリーへの移行が進んでおり、とくにプロ向け電動工具市場では、18Vバッテリーが主流となっています。

さらに直近になると、モーター出力の向上を目的に、36Vバッテリーを搭載した電動工具も増えてきました。 現状、高電圧36Vバッテリー搭載の電動工具の多くは、18Vバッテリー製品との互換性が保たれており、18Vバッテリーの電動工具を取り付けて使用することも可能です。そのため18Vバッテリー対応製品は、今しばらく電動工具業界の主流シリーズとして展開されると考えられています。

電動工具の高電圧化は、特に切断系の回転工具である「丸のこ」「ディスクグラインダ」などが恩恵を受けやすく、これらの工具での作業スピードが大きく向上することが予想されます。18Vと36Vの製品が、同じ出力のモーターを使っている場合、電圧が高くなればその分モーターに流れる電流が減少するため、モーターの損失(発熱)が減ることになり、モーター効率が上昇します。モーター効率が良くなればモーターの出力も上げやすくなり、作業性の大きな向上が見込まれます。

また近年CO2削減を目的とした各国の排気ガス規制により、エンジンで動く工具は減少傾向にありますが、大容量バッテリーパック搭載機器はエンジン動力機器からの受け皿になることが予想されています。留意すべき点としては、電池の容量そのものが向上するわけではないため、1回の充電あたりで可能な作業量はそれほど変化しないことが挙げられます。

エンジン式園芸工具の電動化が本格化

近年、園芸作業で使われる草刈り機やチェーンソーなどのエンジン式園芸工具は、先述の通り、環境問題とそれに対する欧州の排ガス規制や、日本国内の3次排出ガス自主規制を受けて、バッテリーとモーターを使用する電動式への移行が進んでいます。

これまで、刈払機やバリカンなどの園芸工具は手軽な大きさで十分なパワーを得られるエンジン式工具が主流でした。特に構造がシンプルで小型化しやすい2ストロークエンジンは園芸工具によく使われてきました。しかし、2ストロークエンジンは、軽量コンパクトで高出力が得られるというメリットがあるものの、排ガスと燃費性能には致命的な問題がありました。

2ストロークエンジンは、掃気行程で混合気と燃焼ガスが混じり合うため、燃焼が不安定になります。また、混合気が排気ポートから抜けてしまうので、燃費と排気ガス特性が4ストロークエンジンに比べて大きく劣ります。過去、排ガス規制に対応するために4ストロークエンジンの園芸工具も販売されましたが、エンジン体積あたりの出力の低さや取り扱いの悪さなどから市場での評価は低く、現在でもエンジン式園芸工具の多くは2ストロークエンジンを採用しています。

一般社団法人 日本陸用内燃機関協会が策定する「小形汎用火花点火エンジン3次排出ガス自主規制」でも、年々、排ガスに対する規制は厳しくなっており、エンジン式園芸工具に対する風当たりは強まる一方です。2020年1月にはエンジン排出ガス自主規制の新基準も適用されており、このような背景から、電動工具メーカーや農林機器メーカーは、エンジン式から電動式への転換を進めています。

エンジン式と電動式のメリット・デメリット

電動式園芸工具は混合燃料やオイルなどを準備、補充する必要がなく、手軽に使用できることが大きなメリットです。また、エンジン式園芸工具はエンジンのメンテナンスや保管方法に気を付ける必要があります。例えば、エンジン式園芸工具で使われる混合燃料には、レギュラーガソリンとオイルを決められた比率で混ぜたものを使用する必要がありますが、混合燃料には使用期限があり、時間が経過するとガソリンが気化して劣化します。劣化した混合燃料をエンジンに使用すると、エンジンの始動性が悪くなり、キャブレターや燃料フィルターのつまりの原因にもなります。保管状態が悪くエンジンに水が入った場合、使用中に焼き付きを起こす可能性があり、エンジン工具は常に保管方法に気を付けなければなりません。このように、エンジン式園芸工具は手入れや準備に手間がかかります。

こうしたエンジンや燃料に関するメンテナンスを、電動式園芸工具では考慮する必要がありません。刃こぼれした刃の交換やバッテリーの充電のみに注意すれば良いため、エンジン式園芸工具と比較すると、メンテナンスの手間は圧倒的に楽です。しかし、後述するように、電動式工具のパワーはエンジン式には及ばないため、使用状況が限定されるというデメリットがあります。

電動式とエンジン式の園芸工具の比較

電動式園芸工具エンジン式園芸工具
出力・使い勝手やや劣る。高負荷の作業では向いていないケースがある優れる。大排気量で密集地の草刈りなどに対応可能
メンテナンス性優れる。バッテリーの充電を考慮しておけばよい劣る。混合燃料の取扱いや燃料タンクのメンテナンスが必要
排気ガス規制問題無し排気ガス規制対応が必要
作業時間短い。大容量でも1時間ほどの稼働が限界長い。1リットルの混合燃料で数時間稼働可能

園芸工具には高出力が求められるため、電動式では36Vのバッテリーを使用する製品が主流となっています。海外のメーカーにはさらにバッテリー電圧の高い80V(実質72V)の園芸工具シリーズを展開しているところもあります。現状のリチウムイオンバッテリーの場合、36Vでもパワー不足となるため、今後、国内の園芸機器メーカーのプロ向け製品などでは、高電圧化が進む可能性があります。実際に、現在、市場で販売されている電動式草刈機は、作業時間の短さとパワー不足が課題となっています。特に、固いイネ科の植物の刈り取りや、密生地などに使用する場合、エンジン式でも32cc以上の排気量が必要になるため、こうした作業に電動式草刈機を使うのは適切ではありません。

また、作業時間の面でも、エンジン式のほうが優位にあります。エンジンの場合は1リットルの混合燃料で数時間稼働させることができますが、電動式ではどんなに大容量のバッテリーを搭載しても、1時間ほどの稼働が限界です。

「スマート電動工具」が可能にする近未来の作業現場

ガソリン工具から電動工具への転換にともない、同時に欧米メーカーを中心に進んでいるのが「電動工具のIoT化」です。電動工具にBluetooth通信機能を搭載し、スマートフォンと連携することで、工具の細かな設定やロック機能、クラウドトラッキングなどを実現することができます。そうした機能を備えた電動工具は「スマート電動工具」と呼ばれます。

スマート電動工具で実現できる機能として、大きく下記の3つが挙げられます。

  1. 工具の追跡やモニタリングを行う「工具管理」
  2. スマホの画面で工具の動作を細かく設定する「設定のカスタマイズ」
  3. スマホの遠隔操作で工具をロックする「盗難セキュリティ機能」

内部のICタグによって、工具ごとの個別識別も可能にしたり、ICタグとスマホやPCを連携したりすることで、修理依頼やメンテナンス履歴の確認、手持ちの工具の在庫管理など、工具管理のシステム化も可能となります。

また、Wi-Fiモジュールが搭載されている電動工具では、ネットワークに接続することで締め付け時のトルク管理や作業の記録などを自動的に行い、トレーサビリティを向上させるとともに、作業工程をグラフィカルに表示できる製品もあります。それまで職人的な経験を必要とした作業も、ネットワークに接続して管理することで、高品質化と標準化が図れるようになり、高度かつ柔軟な作業システムを構築できる可能性があります。

一方、現状では電動工具を使用する機会の多い建設業や設備施工業では、まだ作業現場のIT化がなかなか進んでいません。そのため、IoT対応のスマート工具を導入しても十分に使いこなせず、実際に使用されるシーンはこれから増えていくだろうと予想されています。

バッテリーの容量向上に伴い「安全基準」も厳格化

電動工具を使用する上で最重要となる項目が、その「安全性」です。特に電動工具に搭載されるリチウムイオンバッテリーは、その動作原理的に燃焼する可能性を有しているため、高い安全基準が求められます。

そうした背景から近年、難燃性の国際規格である「UL 62841-1」でリチウムイオンセルおよびバッテリーシステムに関する要求事項が新たに追加されました。現在、工具に搭載されるリチウムイオンセルには国際規格「UL 62133」または「IEC 62133」のいずれかへの適合が必要となっています。それらの規格では、リチウムイオンバッテリーシステムの通常充電についても記されており、リチウムイオンバッテリーシステムの通常充電中、セルは次に示す「規定された動作領域内」(Specified Operating Region)に留まっていなくてはならないことが定められています。

a) 開回路電圧が試験を受ける前の90%以上ある

b) 通常の充電試験、再充電試験に適合する

c) セルの通気孔に損傷がない

各規格において電動工具は、電動工具本体、 バッテリーパック、バッテリー充電器を含めた完成品の状態で評価されます。そのため、充電器のメーカーならびに充電器を自社で生産している電動工具メーカーは、新たにこのリチウムイオンバッテリーに関する要求事項への適合を達成することが必要となりました。

充電での「規定された動作領域内」に関しては、上にある通り「UL 62133」または「IEC 62133」への適合に必要な充電中の電圧と電流の条件を、セルメーカーから指定されます。リチウムイオンセルを搭載する電動工具を試験・評価する際には、電圧も充電電流もこの規定された動作領域内にとどまっている必要があります。電動工具(バッテリーパックを含む)や充電器が故障した状態においても同様です。追加された要求事項にはその他に、「煙などの放出があっても爆発しないこと」を確認するエンクロージャ圧力試験の実施や、バッテリーパックが落下などの衝撃を受けても以下の条件を満たしていることを確認する機械的強度試験の実施があります。

また、安全性における根本的重要事項として、リチウムイオン充電システムは、部品が故障状態に陥っても燃焼や爆発が絶対に起こらないようにしなければなりません。充電装置中の部品が故障した場合でも、セルは上限充電電圧を150 mV を超えてはならず、もし超えた場合には、その充電装置は永久的にバッテリーを再充電できないことが要求されます。

電動工具に採用が広がるデクセリアルズの表面実装型ヒューズ(SCP)

こうしたリチウムイオンバッテリーを搭載した電動工具や園芸工具の安全性を向上させるために、デクセリアルズの表面実装型ヒューズ「セルフコントロールプロテクター(SCP)」は採用されており、その需要は年々高まり続けています。

セルフコントロールプロテクター(SCP)は、リチウムイオンバッテリーに過充電や過電流が起きたときに、確実に回路を遮断してバッテリーが危険な状態になることを防ぐための表面実装タイプのヒューズ素子です。1994年に当社の前身が開発し、生産を開始して以来、リチウムイオンバッテリーの普及に歩調を合わせ、さまざまなエレクトロニクスデバイスに搭載されてきました。

先述の通り、一つの電池パックにセルを複数接続することで数十Vの高電圧を実現したリチウムイオンバッテリーが電動工具には用いられており、セルの本数は増加する傾向にあります。それにともない、万が一の過充電等のトラブルが起きたときに、安全に回路を遮断する機能を持つセルフコントロールプロテクター(SCP)にも、高電圧への対応が求められるようになりました。高電圧化に伴うバッテリーの保護回路に関する記事はこちらをご覧ください。

電動工具でSCPを採用するメリットは大きく分けて、3つあります。

  1. 安全性向上:回路の永久遮断が可能。異常パックの再使用を禁止
  2. 急速充電可能:パワーラインの低抵抗化に対応。エンドユーザーの待機時間低減
  3. ヒューズの溶断カーブ制御:通電時にヒーターで加熱することで、異常時に即座に遮断可能→ヒューズの仕様に関わらず、セルの性能限界まで使用可能

先述の電動工具の難燃性規格の変更に伴い、電動工具でもより高い安全性が求められるようになり、SCPを検討、採用する電動工具メーカーは世界中で増えています。2019年末から、新型コロナウイルス感染症が世界的に流行したことにより、各国でステイホーム(在宅)が求められるようになりました。その結果、多くの国々で家や家具の修理を自分で行う「DIY」に取り組む人が爆発的に増え、電動工具や電動園芸工具市場も大きく成長を続けています。今後も、市場拡大のトレンドにある電動工具において、デクセリアルズの表面実装型ヒューズ「セルフコントロールプロテクター(SCP)」はエンドユーザーの皆様の安心・安全に貢献していきます。

参考文献:Japan on the Mark UL Japan

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