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リチウムイオン電池を活用した電力貯蔵システム(ESS)

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電力貯蔵システム(ESS)とその重要性

電力貯蔵システム(ESS:Energy Storage System)は、電力を一時的に蓄え、必要なときに供給することで、電力の需給バランスを保つことを目的としたシステムです。

近年、脱炭素化の流れから再生可能エネルギーの利用が増加しており、ESSの重要性が高まっています。再生可能エネルギー、なかでもその主役である太陽光発電や風力発電は、天候や時間帯によって発電量が変動します。そのため、この変動を吸収し、安定した電力供給を実現するためにESSが不可欠となります。

ある調査会社の予測によると、2022年時点で世界の発電出力に占める太陽光と風力発電のシェアは2割強でしたが、2030年には5割弱まで増加する見込みです。再生可能エネルギーのシェアが高まるにつれて、電力貯蔵の需要も大きく伸びると予想されています。(出典元:World Energy Outlook 2023 – Analysis – IEA

世界の発電容量の推移(発電技術別、Stated Policies Scenario)

ESS導入が増加する背景

ESSの導入が増えている背景については、次の4点が主に指摘されています。

  1. 再生可能エネルギーの導入の増加
    再生可能エネルギーの導入が進む中、ESSは電力の需給バランスの安定化と電力システムの柔軟性向上に大きな役割を果たします。特に太陽光発電所へのESS併設が進み、発電事業用のESSがさらに拡大すると予測されています。
  2. 電力貯蔵技術の進歩
    リチウムイオン電池の技術革新により、ESS自体のさまざまな性能が向上しました。具体的にはエネルギー密度、充電速度が向上し、サイクル寿命が改善し、また、安全性も向上してきました。ESSの性能が向上したことで、導入が促進されています。
  3. エネルギー政策による導入支援
    先進国を中心に再生可能エネルギー導入を支援するために、政策的な優遇措置をとっており、例えば、米国では2022年に制定されたインフレ削減法(IRA)により、再生可能エネルギー導入支援を強力に推し進めています。系統用蓄電池(※)に関しては、過去1年間でエネルギー貯蔵量が2倍以上に増加し、2024年はさらに2倍に増加する見込みと言われています。
    ※太陽光発電所、風力発電所などに直接接続されている蓄電池のこと
    (出典元:米ホワイトハウス、クリーンエネルギー経済構築への取り組みの進捗と効果発表(米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ)
  4. 電力需要の増加
    今後の電力需要の増加に対して、天候や時間帯による発電量の変動の大きい太陽光発電、風力発電の新設で対応するには、ESSによる需給バランスの調整の必要があります。

ESS導入を進める事業者

太陽光発電や風力発電は、天候や時間帯によって発電量が変動するため、「変動性再生可能エネルギー(VRE)」と呼ばれます。
一方、電力需要も季節や時間帯で変動します。例えば、日本では冷暖房を利用する夏と冬に需要が増加、昼間と夜間でも需要が変動します。
さらに、電気は大量貯蔵が困難です。そのため、発電量と電気使用量が常に一致するよう調整される必要があります(同時同量の原則)。
こうした事実をふまえ、以下のような事業者や施設がESSを導入しています。ESSを導入することで、事業者や施設側は電力供給の安定化、電力コストの削減、環境負荷の軽減などのメリットを享受、同時に電力の需給バランスも調整することが可能となります。

  1. 電力会社
    電力需要にすぐ対応できる安定した電源が必要なため
  2. 再生可能エネルギーによる発電事業者(太陽光や風力発電など)
    事業者として発電量の変動を吸収し、安定した電力を供給する義務があるため
  3. 大規模施設(工場、商業・医療施設、自治体・官庁・公共施設)
    電力供給の安定化や非常時の電源確保のため
  4. 脱炭素化を目指す企業
    余剰電力を有効活用することでCO2排出の削減を目指し、再生可能エネルギーの導入を図るため。

リチウムイオン電池を活用した大規模電力貯蔵

従来の大規模電力貯蔵は主に揚水発電が用いられてきましたが、長い工期や設置環境の制約などの課題がありました。一方、電気自動車の普及に伴うバッテリー価格低下と電力貯蔵需要の増加から、近年は蓄電池による電力貯蔵が注目されています。

蓄電池は「応答性が高い」「放電時間が長い」「設置環境に制約がない」「設置工期が短い」というメリットがあります。特に、瞬時需給調整やピークシフト用途では、高エネルギー密度、長寿命、急速充電が可能なリチウムイオン電池が一般的に使用されています。

主な電池の種類としては、リチウムイオン蓄電池(LiB)、ナトリウム硫黄電池(NAS電池)、レドックスフロー電池(RF電池)の3つがあり、中でもリチウムイオン電池は電気自動車のリユース電池の活用先として期待されています。

世界のエネルギー貯蔵システムの総出力は2022年で約223GWでしたが、2030年には約512GWに達すると予測されています。しかし、全世界の発電出力に比べるとまだ小さい規模です。揚水発電の出力も2030年で240GW程度と見込まれており、再生可能エネルギー拡大に向けてはさらなる蓄電池などの導入が必要不可欠です。
(出典元:Energy Storage Systems Market Size & Share Report, 2030

揚水発電は地形の制約や環境破壊の懸念があり、蓄電池による大規模電力貯蔵への期待が高まっています。しかし、蓄電池は充放電による劣化があり、期間コストでは揚水発電が有利とされています。そのため、蓄電池およびリプレースを含む関連コストの低減が普及の鍵となっていくでしょう。

二次保護ヒューズの重要性

以上、リチウムイオン電池を活用する蓄電池システムについて見てきましたが、バッテリーの安全の確保には保護システムが大変重要であり、そのソリューションの一つとして、二次保護ヒューズが挙げられます。二次保護ヒューズは、過電流や短絡が発生した際に自動的に電流を遮断し、システムの損傷を防ぎます。これにより、リチウムイオン電池の過充電や過放電による熱暴走のリスクを軽減し、全体の安全性を向上させるのです。

ヒューズの選定には、最大連続電流、遮断容量、および動作温度範囲が考慮されなければなりません。これらのパラメータが適切にマッチすることで、ヒューズはその保護機能を最大限に発揮し、リチウムイオン電池システムの長期的な信頼性と性能維持に貢献します。

インフラ関連アプリケーションでは、メンテナンスの頻度を減らすことがコスト削減に直結します。そのため、適切な二次保護を設けることは、システムの安全停止を可能にし、メンテナンスコストの削減にもつながります。

電力貯蔵システムの進化と普及に向けて、ヒューズの選定と設計は、そのシステムの安全性と信頼性を高める上で重要な役割を果たします。二次保護ヒューズの効果的な運用が、エネルギー供給の未来においてますます重要になっていくでしょう。

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