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粒子整列型異方性導電膜「ArrayFIX」 そのメリットと拡大する市場

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ACFの発展の歴史

1977年、デクセリアルズが前身のソニーケミカル時代に業界に先駆けて、ICなどの電子部品を接続するためのフィルム材料として異方性導電膜(ACF)を開発しました。ACFは熱硬化型樹脂フィルムのなかに導電粒子が分散しており、熱と圧力をかけることで多数の電極を一度に接続することができる機能性材料です。誕生から40年以上が経過したACFは、今日までにさまざまな改良が加えられ、現在ではディスプレイに欠かすことのできない部材となっています。

こちらの年表は、ACFに含まれる導電材料がどのように発展してきたかを示しています。ACFはベースとなる接着剤の熱硬化性樹脂の中に、導電性を有する細かい粒子が分散する構造をとっています。最初のACFは大きさ100μm程度のカーボンファイバー製の導電体が採用され、数年後には約半分の大きさである粒径50μmの金属粒子を採用したACFの開発に成功、1988年には樹脂にニッケルや金のめっきを施した導電粒子が誕生し、液晶ディスプレイを駆動させるICとガラス基板の接続に用いられるようになりました。

異方性導電膜(ACF)開発の歴史

そして90年代には、粒子の表面を絶縁コーティングする技術が開発されました。ACFによる実装の際、向かい合う端子に挟まれてこの導電粒子が捕捉されるとコーティングが取れて通電する一方、補足されなかった粒子はコーティングが維持され絶縁が保たれます。この仕組みにより隣接する端子間のショートを防ぐことが可能となり、端子間隔の小さい多端子や小面積のICにも対応することができています。ACFは液晶パネルの市場拡大とともに進化を遂げ、特に2000年代初頭にそれまでのブラウン管テレビから液晶テレビへの移行が本格化すると、爆発的に需要が拡大しました。いまやディスプレイにおいてACFは不可欠の素材といっても過言ではなくなっています。

こちらのイラストは、液晶テレビやスマートフォンのディスプレイ内部で、ACFが主にどこに使われているかを示しています。ACFはディスプレイパネルと、そこに信号を送るフレキシブル基板または液晶を駆動させるICを接続する部分で使われるのが一般的です。イラスト下部の「COG(Chip on Glass)」はICとガラス基板の接続、「FOG(Flex on Glass)」はフレキシブル基板とガラス基板の接続、「FOB(Flex on Board)」はフレキシブル基板とリジット基板の接続を意味しています。

異方性導電膜(ACF)の利用シーン:COG実装、FOG実装、FOB実装

粒子を整列させた異方性導電膜「ArrayFIX(アレイフィックス)」

ACFにさらなるブレイクスルーが起こったのは、2014年のことです。回路のファインピッチ化にともない、ACF内の粒子は小さくなり続けていましたが、近年はその限界を迎えつつあったことから、新たに「導電粒子を樹脂のなかに整列させる技術」が開発されました。その後、2016年に上市されたその新しいACFは粒子整列型異方性導電膜「ArrayFIX」と名付けられ、近年ではディスプレイに従来の液晶だけではなく有機EL(OLED)を採用したハイエンドスマートフォンや、ウェアラブル端末、車載用ディスプレイなど、ファインピッチ接続の高度な信頼性が求められるデバイスへの採用が広がっています。

こちらのイラストは、左が従来型のACF、右がArrayFIXの内部の粒子の分散の様子を表しています。従来型では小さい粒子がランダムに分散しているのに対して、ArrayFIXでは粒子が平面上に一定間隔で整然と整列していることがおわかりいただけるでしょう。樹脂内で粒子配列をこのようにきれいに制御するには特殊な技術が必要で、粒子整列型のACFは現時点では世界で唯一、デクセリアルズのみが生産を行っています。

従来型のACFとArrayFIXの内部の粒子分散の様子

導電粒子を一定間隔で並べることの最大のメリットは、「導通が確実にとれるとともに、端子間でのショートリスクを低減できること」です。ディスプレイの回路接続部は、年々ファインピッチ化が進み、接続端子は面積が小さく間隔も狭くなっています。これに対応するため、従来のACFでは小さくなった端子にも粒子が一定数以上捕捉されるように導電粒子の量を増やしてきましたが、粒子が増えれば増えるほど、間隔の狭くなった端子間の粒子も多くなり、それだけショートする可能性も高まります。それに対して粒子が整然と並んだArrayFIXは、十分な導通がとれる数量の粒子が端子に捕捉されると同時に、個々の粒子も離れているため、端子間で粒子同士が接触してショートに至るリスクを減らすことができます。

粒子捕捉の事前シミュレーション

ArrayFIXは上記のような粒子捕捉の安定性や絶縁リスクの小ささから、技術的難易度の高いハイエンドスマートフォン用のディスプレイや、高い信頼性が求められる車載用ディスプレイに採用されることが増えています。また他にも、お客さまがArrayFIXを採用するメリットとして、「粒子整列型ACFは粒子捕捉の事前予測がしやすい」ことがあげられます。これは従来のACFでは、端子当りの粒子捕捉数が正規分布のような確率分布に従うのに対して、粒子整列型ACFは粒子の位置を事前に設計して決めているため、極めて安定した粒子捕捉が実現できるからです。事前に実験用のデバイスを組み立てて検証を行わなくても、コンピュータ上で配線や端子のデザインを検討でき、お客さまの設計検証が短時間で行えることから開発期間の短縮にも貢献しています。

端子当たりの粒子補足数の分布

当社では現在、大きくPAF300シリーズ、PAF400シリーズ、PAF700シリーズの3種類のArrayFIXをご用意しています。それぞれ、粒子の大きさや配列間の距離、ベースの接着剤の硬化温度などに特長があり、さまざまなアプリケーションに対応が可能です。

おかげさまでArrayFIXシリーズは2016年12月の発表以来、非常に好評で年々採用数が増えています。とくにCOP(Chip on Plastic)接続が求められるフレキシブルな有機EL(OLED)デバイスでの需要が伸び続けており、今後の有機EL市場の拡大とともに、ますますArrayFIXの活用が広がっていくことは確実と考えています。

ArrayFIX 製品情報

”ArrayFIX”及びそのロゴは、デクセリアルズ株式会社の日本およびその他の国における商標または登録商標です。

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