- 光学関連
自動車のヘッドアップディスプレイの画質が向上、「拡散マイクロレンズアレイ」のトップハット配光構造
目次
普及が進むヘッドアップディスプレイ
高級車への搭載が進むヘッドアップディスプレイ(HUD)。その画質向上のために使われるのが、デクセリアルズの開発した拡散マイクロレンズアレイだ。自動車市場に向けた製品の営業を行っているグローバルセールス&マーケティング本部 オートモーティブソリューション営業部では、ドライビング体験向上のためのさまざまな製品を扱っており、拡散マイクロレンズアレイはその一つ。グローバルセールス&マーケティング本部 オートモーティブソリューション営業部統括部長の中根基之が説明します。
――オートモーティブソリューション営業部で扱っている拡散マイクロレンズアレイとは、どんな機能を持つ製品なのでしょうか?
拡散マイクロレンズアレイ(Diffusive Microlens Array、以降 DMLAと表記)は、最近の自動車で普及が進んでいるヘッドアップディスプレイ(HUD)の内部に使われる部品です。HUDがフロントガラスに投影する映像の輝度を上げたり、表示ムラを低減する機能を持っています。日本では「拡散板」などと呼ばれています。
HUDは、運転席のフロントガラスにプロジェクターが映像を投影することで、ドライバーに情報を伝えます。現在の自動車では、従来のディスプレイ型カーナビを補完する位置づけとなっていますが、その開発は欧州の自動車メーカーが先行してきました。
――なぜ欧州メーカーでHUDの開発が進んだのでしょうか?
ドイツのアウトバーンが代表的ですが、ヨーロッパのいくつかの国には「速度無制限」の高速道路が存在するからです。時速170〜180kmの高速で走っているときに、ナビゲーションを見るためドライバーが目線を進行方向から動かすのは、とても危険ですよね。その点HUDは、視線を前方に向けたまま、フロントガラスの映像を通じて必要な情報を得ることができます。
その大きなメリットから、HUDは欧州メーカーの車を中心に採用が広がっており、安全性を高めたい日本のメーカーも搭載車種を増やし始めています。本格的な普及がこれから進んでいくことは確実です。
輝度を約40%向上し表示ムラを抑えるトップハット配光構造
ドライバーの安全に貢献するHUDだがより利便性を高めるためには「画角と画質を筆頭に、まだまだ課題も多い」と中根は言う。それらの課題を解消するためにDMLAは生み出された。
――DMLAはHUDのどこに使われているのですか?
下のイラストをご覧ください。自動車のHUDは、会議室でのプレゼンテーションで使われるプロジェクターと同じ原理で、スクリーンの代わりにフロントガラスに映像を投影します。光源となるLEDから放出された光は拡散板(今回は拡散フィルム)によって効率的に拡げられ、液晶(LCD)を背後から照らし、HUD内部のミラーを介して最終的にフロントガラスに向けて投影されます。
レーザーポインターのように光は一点に集まるほど明るく、拡散する(広がる)ほど暗くなります。つまり同じ光の強さなら画角が広がるほど、輝度は下がるわけです。HUDも映像ソースの光を強くすれば明るくなりますが、それに応じて電力も必要です。省エネが進むEVでは、視認性の観点でHUDの輝度をあげたいというニーズがある一方、航続距離(省エネ)の観点でHUDにかける電力は極力抑える必要があります。
また現在のHUDはさまざまな理由からカーナビのディスプレイに比べて映せる範囲が小さく、わずかな情報しか表示できません。これらの課題を解決するために、自動車メーカーや部品メーカーのお客さまに提案しているのがDMLAという製品です。
――DMLAはどのような原理によって、これらの課題を解決するのでしょうか。
以下の図は、デクセリアルズが開発したDMLAの断面構造イメージと外観写真です。従来の拡散板は表面が平坦ですが、当社のDMLAは表面に一つひとつが光学計算された微細な凸凹形状が隙間なく形成されています。それによって拡散する光のスクリーン上での輝度が全体的に均一になり輝度ムラが抑えられ、効率的な面拡散を実現するのです。
下の写真は当社のDMLAによって全体的に光が拡散して明るくなっている様子を示したものです。DMLAの特殊な形状を通じた光は、配光角度と輝度をグラフにしたとき帽子のような線を描くことから、その独自の配光構造を「トップハット配光」と名付けています。
トップハット配光によって、HUDは従来品に比べて大きな画角と高品質な映像を投影することができます(下図参照)。また私たちが保有する技術は、拡散配光の形状も自在に調整でき、X方向とY方向の拡散角度を変えることで、「楕円型」に配光することも可能です。すでに引き合いをいただいており、搭載に向けて活動をしているところになります。
未来のクルマの実現のために映像と光の技術で貢献する
コンシューマーエレクトロニクスの世界から新しい事業領域である自動車領域へ。自分たちの「最大の強み」である「光をあやつる技術」を武器に、開拓を進めていく。
――デクセリアルズではDMLAの技術の先に、どのようなHUDの未来を描いていますか?
表示サイズが大きくなっていくことは間違いありません。また自動運転技術の進展とともに、AR(拡張現実)が取り入れられていくでしょう。たとえば前方を走る車の位置情報と速度をセンサーが捉えて、最適な進路をリアルタイムにフロントガラス上に映し出していく。そんなナビゲーションが普通のものになっていくはずです。さらに3Dの立体映像などを含め、お客さまである自動車メーカーもさまざまな方向性を検討しており、キャッチアップを続けているところです。
デクセリアルズが自動車領域の事業へ注力し始めたのは2015年頃です。それまでは携帯電話やパソコンなどに使われるエレクトロニクス製品向けの製品を作ってきました。コンシューマーエレクトロニクスの市場に投入される商品に比べて、自動車というアプリケーションは、はるかに長い時間をかけて開発されます。その市場において、当社の強みを最大に生かせるのが、車載ディスプレイやHUDの分野だったということです。
自動車の内外に画像や映像を映し出したり、車が発する/取り入れる光を制御する技術は、これからさらに発展していくことが見込まれます。例えばリアガラスに広告を表示したり、歩行者や対向車を自動的に避けてライトを照らしたり、ミラーの代わりをカメラとディスプレイが果たすようになっていくでしょう。そうした未来の車に、デクセリアルズはエレクトロニクスで培った技術を活かして貢献していきます。
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