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二次保護ヒューズ(SCP)の可能性ーー過充電・過電流に対応した機能が拓く新市場

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過充電・過電流の課題を解決する技術

リチウムイオンバッテリーの充放電回路に過充電・過電流が起きた際に回路を遮断する二次保護ヒューズ・セルフコントロールプロテクター(SCP)は、ノートPCやスマホなどのエレクトロニクス機器や、電動工具、電動クリーナーなどのパワーツールに搭載されている。

デクセリアルズが開発、製造、販売するSCPの新市場の可能性と、他社にない強みとは。技術者として、新製品の開発を進めるコネクティングマテリアル事業部商品開発部・小森千智に聞いた。

――現在の仕事内容について教えて下さい。

私の仕事における一番のミッションは、二次保護ヒューズ・SCPの新しい市場を開拓することです。そのためにお客さまのところに伺って、さまざまな「困りごと」についてヒアリングし、それを解決できる製品の開発につなげています。デクセリアルズのSCPのラインナップで対応できる場合は既存の製品を提案しますが、それが難しい場合はSCPを構成する素材を見直したり、新たな回路を考えてご提案したりすることもおこなっています。

 

お客さまから小森に寄せられるSCPへの要望は、さまざまなものがある。小森はお客さまごとに違うニーズを解決するために、デクセリアルズに蓄積された知見を結集してその要望に向き合ってきた。

――具体的にはこれまで、どのような提案を行ってきたのでしょうか?

数年前に、ある電動パワーツールのお客さまから、「SCPが対応する電圧の幅を、広げてほしい」という要望が寄せられたことがありました。SCPは製品ごとに決まった電流・電圧でヒューズが溶断されることでリチウムイオンバッテリーの安全を担保します。しかしそのお客さまが搭載を検討していた機器は、駆動時の電圧の幅が広く、デクセリアルズのSCPにも従来品の数倍の電圧レンジに対応することが求められたのです。

――どうやってその課題を解決したのでしょうか。

「PWM:Pulse Width Modulation(パルス幅変調)」と呼ばれる技術を応用した回路をご提案しました。保護回路上のICから出される制御信号をパルス制御によって高速にスイッチング、ヒーターに給電される電力を下げ、SCPの対応電圧の幅を大きくするという方法です。条件に応じてパルス幅を制御することで対応電圧を上げたり下げたりできることから、デクセリアルズのSCPを問題なく搭載していただけることになりました(PWMについての詳細はこちらの記事をご参照ください)。

その他の事例としては、お客さまの要望に応えてSCPのキャップと呼ばれるパーツをセラミック基板に固定する際に使用していた接着剤を従来より熱に強いものに変えたこともあります。SCPを表面実装する際にはリフロー工程で熱処理を行う必要がありますが、そのお客さまは通常より高温で処理を行っていたため、SCPの接着剤にも高い熱耐性が求められたのです。

――お客さまにヒアリングするときに心がけていることはありますか?

お客さまの話をよく聞いて理解することが一番ですが、その次に大事なのは「それをそのまま受け入れるのではなく、問題・課題の本質を捉えて最適なソリューションが他にもないか考える」ということです。例えばお客さまが「これだけの大電流、高電圧に耐えられる新しいSCPがほしい」と仰っていても、よく話を聞いてみると、私たちが持っているノウハウを組み合わせることですぐに解決できることもあります。単純にお客さまが望んでいるものを提供するのではなく、真に顧客の課題を解決できる技術を提供するのが私たちの使命だと考えています。

過充電・過電流の課題を解決する技術

DC/DCコンバータや電気自動車への導入が期待される二次保護ヒューズ技術

設定した条件で「回路を切る」機能を実現するSCPの活用可能性は、エレクトロニクス製品にとどまらない。小森は新市場の開拓を視野に入れる。

――今後、新たに挑んでいきたい市場はどこでしょうか?

いまSCPは「リチウムイオンバッテリーの保護」という機能に特化して製品のメリットをアピールしていますが、電流・電圧によって回路を物理的に切るという特性を活かして、リチウムイオンバッテリー以外にも使える製品がないか、考えているところです。その一つがDC/DCコンバータへの応用です。DC/DCコンバータは、直流電源から回路が必要とする電圧を降圧・昇圧することで取り出す装置です。

いろんな機械に使われていて、例えば荷台に冷蔵庫を積んだ冷蔵車・冷凍車などに使用されています。DC/DCコンバータは、内部で高電圧を低電圧に変えたり、その逆に変化させたりしていますが、部品の故障や誤動作で高電圧側から低電圧側に電気が流れて壊れてしまうことがあるのです。その「逆流防止」の機能を実現する素子として、SCPは活用できるのではないかと考えています。

――今後世界的に急激に拡大することが予想される電気自動車(EV)も、リチウムイオンバッテリー以外の場所でSCPが搭載される可能性はあるのでしょうか。

大いにその可能性があると考えています。AIによる自動運転技術が進んだEVは、一つの大きな動くエレクトロニクス機器です。搭載されたセンサーによって外部と通信して得た情報を、モーターの回転速度や進行方向に反映させて駆動します。

その内部の回路はすべて電気的につながっているため、何かしらのトラブルで制御が不可能になったときに、回路を切ることでドライバーや乗員の安全を確保する必要があります。トラブルが起こったときにEVを安全に止める、走行できなくする、その機能の実現のためにSCPは非常に有効に使えるはずです。ただし、自動車は、エレクトロニクス機器に比べて圧倒的に大電流・高電圧になるため、これまでのSCPとは違うアプローチや構造が必要で、現在検討を進めています。

DC/DCコンバータや電気自動車への導入が期待される二次保護ヒューズ技術

20億台以上のエレクトロニクス機器を保護してきた実績

市場に投入されてから30年近くにわたり世界中の電子機器を保護してきたデクセリアルズのSCP。その活用の舞台は今後さらに広がっていく。

――デクセリアルズのSCPの強みとは何でしょうか?

世界に先駆けて、リチウムイオンバッテリーが市場に登場したときから保護素子として歩みを共にしてきた実績だと思います。当社のSCPは発売開始以来、世界中のメーカーが生産する20億台以上のエレクトロニクス機器に搭載されてきましたが、私たちが知る限りSCPに起因する深刻なトラブルの事例は聞いていません。

その実績があるからこそ、多くのお客さまからリチウムイオンバッテリーの保護に関する相談が日々寄せられ続けているのだと思います。リチウムバッテリーの容量や出力が増大し、使用されるシーンも広がり続けるなかで、その安全性を担保することはますます重要となります。これからも、SCPの活用を通じて人々の暮らしに貢献していくことを目指します。

20億台以上のエレクトロニクス機器を保護してきた実績
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