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導波路型フォトダイオードの展開―UTC-PDとの融合による高速化への挑戦

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データセンターの進化を支える新技術開発

近年、AI技術の急速な発展や映像配信サービスの拡大により、世界的にデータトラフィックが急増、同時にデータセンターで消費される電力も増加しています。このような状況を踏まえ、SDGsの観点からも、データセンターの消費電力を削減する試みが進められており、サーバーやスイッチなどのデータセンター内の電子機器、光トランシーバーなどの個々のモジュール/デバイスにおいて低消費電力化が求められています。

前回の記事では、従来の面型フォトダイオードが抱える課題と、その解決策として期待される導波路型フォトダイオードの基本的な構造について解説しました。(「導波路型フォトダイオードの仕組み―データセンターの高速化を支える新技術」はこちらからご覧いただけます。)
本記事では、導波路型フォトダイオードの性能をさらに引き出すUTC-PDとの組み合わせや、実用化に向けた具体的な取り組みについて紹介します。

データトラフィックの急増と従来型フォトダイオードの限界

導波路型フォトダイオードの優れた特徴を理解いただくために、まず、従来の面型フォトダイオードが構造的に抱えていた課題について説明します。下図は、pn型、pin型と呼ばれる従来の
面型フォトダイオードの模式図です。面型フォトダイオードでは、部品の上部から光が入射し、光吸収層で吸収されて、電流へと変換されます。光の変換効率を上げるには、p層とn層の境界にある光吸収層を厚くすることが有効です。
しかし、層を厚くすればするほど、電気を運ぶ粒子である電子や正孔(キャリア)が移動する距離が長くなります。その結果、信号の処理に時間がかかるようになり、「帯域幅」が減少するというトレードオフの結果が生じます。

pn型、pin型と呼ばれる従来の面型フォトダイオードの模式図

帯域幅とは、1秒間に光信号を処理できる回数のことです。帯域幅が1GHzであれば10億回の信号を処理できることを意味し、帯域幅が大きいほど、より多くの情報を短時間に処理できます。近い将来、データセンターの高速化要求に伴い、クライアント側の光トランシーバーに求められる通信速度は400G、800G、さらに1.6T、3.2Tと進んでいくと予測されています。

ところが、従来型のフォトダイオードでは、上記の「感度を上げたいのに上げると速度が落ちてしまう」というジレンマを抱えることになり、性能向上に限界がありました。特に、最近の高速通信では装置を小さくする必要があるため、この問題はより深刻になっています。これが、後述する新しい技術(導波路型フォトダイオードやUTC-PD)が必要とされている理由の一つです。

導波路型フォトダイオードとUTC-PDの組み合わせ

導波路型フォトダイオードの最大の特徴は、、「光を吸収する方向と、電気の粒子(キャリア)が走る方向がほぼ直角になっていること」です。この構造により、光をどれだけ吸収するか(感度)と、どれだけ速く処理できるか(帯域)を、それぞれ別々に設計することが可能となりました。

導波路形状にした光吸収層を「単一走行キャリア型フォトダイオード(UTC-PD)」技術と組み合わせることで、さらなる性能向上が期待できます。導波路型フォトダイオードは、微小な導波路端面への光結合の工夫が必要であり、開発時には重要な技術ポイントとなります。

導波路型フォトダイオードとUTC-PDとの組み合わせ

UTC-PDとの組み合わせによる超高速化への挑戦

導波路型フォトダイオードの帯域幅をさらに高めるもう一つの技術が、「単一走行キャリア型フォトダイオード(UTC-PD)」です。半導体に光が当たると、そのエネルギーによって電子と正孔というマイナス・プラスの電荷を持つ粒子が生まれます。この2つの粒子が移動することで電流が流れ、光信号が電気信号に変換されるのがフォトダイオードの仕組みです。

従来のpin型フォトダイオードでは、この電子と正孔の両方が同じように動いて電流を作り出していましたが、ここに大きな問題がありました。正孔は電子と比べて動きが遅く、電子が秒速10万メートルで動けるのに対し、正孔は半分以下の速度でしか移動できません。高速な光通信を実現するうえで、この正孔の移動の遅さが大きな制約となっていました。UTC-PDは、この「遅い正孔」の問題を解決するために考案された革新的な技術です。

UTC-PDでは、光を吸収する層をP型半導体で作ります。p型半導体は、半導体に特殊な原子(不純物)を混ぜることで、意図的に正孔を多く作り出した半導体です。多数キャリアである正孔は「誘電緩和」という物理現象により、「群れ」となって非常に速く移動することができます。例えるなら、水滴が一つひとつ動くのではなく集まって波となり、一気に流れるようなイメージです。これにより、正孔の移動の遅さが問題にならなくなります。

また、UTC-PDでは、光を吸収するp型半導体層の隣に、光を吸収しない「キャリア走行層」を設けています。電子だけが主役となって動くため、正孔と電子が混在することで起こる「空間電荷効果」(電界が弱くなって出力が飽和する現象)も抑えることが可能です。従来のpin-PDは「速い車(電子)」と「遅い車(正孔)」が同じ車線を走る高速道路のような構造でしたが、UTC-PDは、遅い車を別の専用レーンに移動させ、速い車だけが走れる車線を作ったようなものです。

こうした構造上の工夫により、UTC-PDは従来のpin-PDと比べて、300GHz超という超高速動作と、従来の10倍程度の大きな電流の出力を可能にします。このUTC-PDの技術を導波路型の構造と組み合わせることで、次世代の高速光通信に必要な超高速・大容量の信号変換が可能になると考えられています。ただし、この技術を実用化するためには、微細な導波路に光を効率よく結合させる技術など、まだいくつかの課題を解決する必要があります。特に、半導体でできた非常に小さな導波路に、いかに効率よく光を導くかが重要な技術的なポイントとなっており、この課題を解決するために私たちはトライ&エラーを繰り返しています。

シミュレーションを活用した最適化と高度な製造・評価設備による実証

導波路型フォトダイオードの実用化に向けては、「TCADシミュレーション」と呼ばれるコンピュータ解析を用いて、デバイスの構造や材料を変えながら、最も高速に動作する設計を探しています。また、導波路の結合効率と吸収層の吸収率を探るために「FDTDシミュレーション」という解析も行い、構造の最適化を図っています。

導波路型フォトダイオードの実用化に向けたシミュレーションの活用

導波路型フォトダイオードの開発では、シミュレーションによる最適化に加え、実際の製造プロセスの精密な制御が不可欠です。当社では、以下の最新鋭の装置群を用いて開発・量産を進めています:

  • SiO2-CVD装置
  • レーザー描画装置
  • SiN-CVD装置
  • 金属EB蒸着装置
  • CCP-RIE装置
  • リフトオフ装置
  • ICP-RIE装置

これらの装置を用いた精密な製造プロセス制御により、導波路構造の形成や層の厚さの制御を行っています。

デクセリアルズフォトニクスソリューションズで使用している各種装置
出典:NIMS OPEN Facility 公式ホームページ トップページ | NIMS Open Facility公式ホームページ

UTC-PDとの組み合わせによる超高速化への挑戦

現在、デクセリアルズの連結子会社であるデクセリアルズ フォトニクス ソリューションズでは60GHz超や100GHz超の帯域特性の達成に向けて試作を行っています。

開発ロードマップでは、2026年までに200Gbps/laneの導波路型PDの実用化を目指しています。さらに2030年に向けては、400Gbps/laneのCPO(Co-Packaged Optics)モジュール用PDの開発も視野に入れています。
また、低消費電力化を実現するためにLPO/LROなどの光トランシーバー内DSPレスのソリューションや、Co-Package(CPO)へのシフト、次世代LD・変調器の開発なども検討されていくと見られます。

デクセリアルズフォトニクスソリューションの開発ロードマップ

こうした開発を通じて、通信速度400Gbpsから、さらに1.6T、3.2Tの超高速光通信を可能にする導波路型フォトダイオードの実現を目指して、私たちデクセリアルズは研究を続けてまいります。

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