- 光半導体関連
SWIR(短波長赤外線)を用いた生体センシング技術の基礎知識
SWIRとはなにか? 短波長赤外線技術の基礎知識
「SWIR(Short-Wave Infrared)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? SWIRは短波長赤外線、すなわち赤外線の中でも波長の短い光のことを指します。「スワイア」と呼ばれているこの光を使った技術が、いま私たちの日常生活のさまざまな場面で応用されています。本記事では、赤外線の一種であるSWIRについての基礎知識と身近な応用例について解説いたします。
赤外線とは、目に見える光よりも波長が長く、電子レンジなどで使われるマイクロ波よりも波長が短い電磁波のことを指します。人間の視覚は波長の長い光を赤い色の光として認識しますが、その波長の上限は760〜830 nmと言われています。それ以上の波長の電磁波は光として認識できません。そのため「可視光の赤色域よりも外側の光線」という意味で、「赤外線(Infra–red)」と呼ばれています。
赤外線は波長帯域によって、近赤外線(NIR:780~2500nm)、中赤外線(MIR:2500~4000nm)、遠赤外線(FIR:4000nm~1mm)に分類されます。本記事で解説するSWIR(900~1700nm)は、近赤外線の一部の帯域を指します。下図は、電磁波スペクトルの中での、SWIRの位置を示しています。
参考文献:SWIRとは? | Edmund Optics
SWIRの基本特性と光学特性
光は、宇宙空間のような物質のない真空中では直進しますが、水や空気などの物質に当たると、「吸収」「透過」「反射」「散乱」などさまざまな挙動を示します。素材に光を当てると、透明度の高い素材の場合は、光は通り抜けて(透過)外に出ます。透過する際に、一部の光が素材に吸収され熱エネルギーに変換されます(吸収)。素材の表面が鏡のように滑らかな場合は、一部の光が跳ね返される(反射)のに対し、表面に凹凸がある場合は光がさまざまな方向に飛び散る(散乱)現象が起こります。
私たちの目は、この「透過光」「反射光」「散乱光」を通して、あらゆるものの色や形を認識しています。
これらの光の挙動は、波長によって物質ごとに特徴的な変化を示します。例えば、シリコンは可視光では不透明ですが、SWIR帯域では透過性を持ちます。逆にガラスの種類によっては、可視光は透過しても特定の赤外線は透過しにくい特性を示します。このような物質固有の光学特性を利用して、さまざまな計測や分析が可能となっています。
SWIR技術の身近な応用例
- ワイヤレスイヤホンへの搭載例
SWIRが水分に対して高い吸収性を持つ特性を活かし、ワイヤレスイヤホンの装着検知センサーに採用されています。最近のワイヤレスイヤホンには、「プロキシミティセンサー(近接センサー)」と呼ばれる、対象物に直接接触していなくても、物質を検知できるセンサーが備わっており、そこにSWIR技術が活用されています。ワイヤレスイヤホンのプロキシミティセンサーでは、約1300 nmのSWIRを発生させています。皮膚の内部に入った散乱光の一部は水分に吸収され、減衰した光がセンサーに戻ってきます。その減衰量を計測することで、「ワイヤレスイヤホンが生体と接触しているかどうか」を検知することができます。それにより、テーブルの上など生体ではない物質と触れているときには電源オフ、耳につけたときだけ電源をオンするといった機能を実現しています。 - 食品検査での実用例
食品の品質管理において、SWIR技術は非破壊検査の重要なツールとして活用されています。例えば、果物の糖度測定では、SWIRの持つ水分と糖分に対する高い感度を活用することで、果物に傷を与えずに内部の糖度を測定することができます。これにより、果物がいちばん甘くなる収穫時期の見極めや、果物の糖度や等級の判定に利用されています。それ以外にも、食品工場の製造ラインでは、SWIRの光を使ったカメラを用いることで、可視光では検出が困難なプラスチックや紙片などの異物についても高精度に検出することが可能になります。 - 医療機器での応用例
SWIR技術の医療応用として、より高精度な血中成分の測定を可能にするパルスオキシメーターの開発が進んでいます。パルスオキシメーターは、指や耳たぶに装着するセンサーで、血液中の酸素の量を非侵襲的に(体を傷つけずに)測定する医療機器です。通常、健康な人の血中酸素飽和度は95〜100%の範囲にあります。
これまでのパルスオキシメーターは、2つの異なる波長の光(赤色光と赤外光)を使って血中の酸素飽和度(SpO2)を測定してきました。
・赤色光:波長660 nm付近
・赤外光:波長940 nm付近
しかし、この波長では一酸化炭素と結合したヘモグロビン(COHb)を検出することができませんでした。一酸化炭素中毒は、重大な健康被害をもたらす可能性があるため、早期発見が非常に重要です。
一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)は1500〜1700 nm付近のSWIR帯域で特有の吸収スペクトルを持つため、SWIR技術を活用することでその測定が可能になります。近年、アメリカの医療現場では、一酸化炭素中毒が疑われる患者の診断にSWIRを用いたパルスオキシメーターが利用されるようになっています。
ヘルスケア分野におけるSWIR技術の可能性
現在、医療機器・ヘルスケア分野でのSWIR技術を活用したバイタルセンシング技術の開発に注目が集まっています。特に小型化・高感度化が進み、ウェアラブルデバイスへの搭載も実現しつつあります。
- 非侵襲式の血糖値測定
SWIRは皮膚を透過し、血液中のグルコース分子に吸収される性質があります。これを利用して、針を使わない非侵襲で血糖値を測定する技術の開発が進んでいます。これにより、糖尿病の患者の血糖値管理が容易になることが期待されています。 - 皮下組織の可視化
SWIRの透過性を活かしたSWIRカメラによって、皮下の血管や組織の状態を非侵襲的に観察することが可能になると考えられます。これにより静脈注射の精度向上や、皮膚がんの早期発見などへの応用が検討されています。 - ウェアラブルデバイスでのバイタルモニタリング
SWIR技術を搭載したスマートウォッチやスマートリングなどのウェアラブルデバイスにより、血中酸素濃度などのバイタルサインを連続的にモニタリングすることが可能になります。 - 高精度なバイタルサインの測定
SWIR技術を用いた高性能センサーにより、従来よりも高精度にバイタルサインの測定が可能となると考えられます。例えば生体内の物質の変化や、血流の変動をセンサーで検出することで、将来的にはストレスレベルや自律神経系の状態を評価できる可能性もあります。
SWIR技術は、医療機器・ヘルスケア分野での活用が広がり、今後も新たな応用展開が期待されます。
デクセリアルズでは、パルスオキシメーターや、バイタルセンシング技術が搭載されたウェアラブルデバイスなどのメディカル機器向けに、「SWIRタイプ反射型センサー」を14種類ラインナップしています。
SWIR技術を利用したデバイスの小型化・高性能化、低コスト化への取り組みなどについても、弊社のこれまでの知見をもとに、さまざまなご相談に対応することが可能です。ぜひお問合せください。
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