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高速光通信データセンターの全貌:未来のデジタルインフラを支える技術革新

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次世代データセンターに求められる要素

デジタル社会の急速な発展に伴い、データセンターの役割はますます重要になっています。次世代のデータセンターに求められる重要な要素の一つが高速性です。クラウドコンピューティングやAI利用の一般化により、データ処理需要は急激に増えており、より高速なデータ転送と処理が求められています。

また、データセンターは通常、大量の電力を消費するため、環境負荷を低減するためにも、省エネルギー化が不可欠です。さらに、将来的なデータ量の増加に柔軟に対応できる拡張性や、システムの安定性、サイバー攻撃や情報漏洩のリスクに対応する高度なセキュリティ性も求められます。そのうえで、運用コストを抑えつつ、高性能を実現することが重要となっています。

これらの要求を満たす次世代データセンターの有力なシステムとして、世界中で導入が進められているのが高速光通信データセンターです。

高速光通信データセンターとは?

高速光通信データセンターは、従来の銅線による電気信号ベースの通信を補完・代替する形で、光ファイバーと光信号を用いてデータの伝送と処理を行うデータセンターです。サーバー間、ラック間、さらにはデータセンター間の通信を光ファイバーでつなぎ、光信号で情報をやりとりすることで、高速かつ大容量のデータ転送を実現します。

高速光通信データセンターはAIやクラウドサービスだけでなく、金融、医療・ヘルスケア、エンターテイメント、自動車など、さまざまな産業にメリットをもたらすと考えられています。

例えば金融では、高頻度取引や複雑な金融モデルの計算など、低遅延かつ大量のデータ処理を必要とする業務が効率化されるでしょう。医療・ヘルスケア産業では、大容量の医療データ(画像診断など)をリアルタイムで転送・処理することが可能になり、遠隔医療やAIを活用した診断支援などが進展する可能性があります。エンターテインメント産業では、高品質な動画ストリーミングや、クラウドゲーミングなどのサービスがより快適に提供できるようになります。自動車産業では今後、自動運転技術の発展に伴い、自動運転車両がクラウドベースのシステムとリアルタイムに連携する際、高速なデータ処理と低遅延を実現するために高速光通信データセンターが重要な役割を果たします。

高速光通信データセンターの優れた特徴

高速光通信データセンターで使用される光信号は、真空中を秒速約30万km*1で移動しますが、光ファイバー内ではこれよりやや遅くなります。それでも、これは銅線を伝わる電気信号(秒速20万km)よりも高速です。また光通信は電気信号より減衰が少ないため、長距離伝送に向いており、データセンター内外の通信速度を大幅に向上させることができます。
*1 Welcome – BIPM (Search – BIPM)

光ファイバーによる通信のメリットは他にもあります。光ファイバーは電気ケーブルよりも数百倍の帯域幅を持つため、より多くのデータを同時に伝送できます。さらに、後ほど説明する波長分割多重(WDM)技術を利用することで、1本の光ファイバーで複数の異なる波長の光信号を同時に伝送できます。これにより、データ転送容量を大幅に増加させることができます。

光を利用することで、データセンターの低消費電力化も可能になります。光ファイバーは電気ケーブルよりも信号の減衰が少なく、長距離伝送時の電力損失を抑えられます。また、光デバイスは電気デバイスよりも発熱が少ないため、冷却システムの負荷を軽減できます。さらに、データセンター内で光信号を直接利用することで、電気と光の変換回数を減らし、変換時の電力損失を抑制できます。これらの要因により、高速光通信データセンターは、特定の条件下で従来のデータセンターに比べて30%以上の省エネルギー化を実現できるとされています。*2
*2今後の半導体戦略と、将来技術の光電融合技術で実現する次世代光データセンター

また、従来のデータセンターに比べて、高速光通信データセンターは、新しい光ファイバーを追加するだけでネットワーク容量を簡単に拡張できるため、急激なデータ量の増加にも柔軟に対応できます。高速光通信データセンターは、新しい光ファイバーを追加するだけで容易にネットワーク容量を拡張できるため、将来的なデータの需要増加にも柔軟に対応することができます。光ファイバーは電気ケーブルよりも細く、軽量であるため、限られたスペースでより多くのシステムを運用できます。

これらの特性により、高速光通信データセンターは次世代のデータ処理基盤として期待されているのです。

データセンター間の光相互接続のメリット

数10km〜数100km以上離れたデータセンター間の通信においても、光通信技術は重要な役割を果たします。データセンター同士を光相互接続することにより、地理的に分散したデータセンター間で高速かつ大容量のデータ転送が可能になります。光相互接続は、距離が長くなるほどその高い帯域幅と低遅延のメリットが顕著になります。光通信用に開発された波長分割多重(WDM)技術や、1秒間に400ギガビット(400Gbps)*3のデータ転送速度を実現する400G ZRという技術を用いることで、距離的に遠く離れたデータセンター間でも、極めて低い遅延での通信が可能となります。
*3次世代の高速ネットワークを実現する400G ZRとは? | Ruijie Networks Japan

また、光相互接続は、情報セキュリティの観点からも優れた特性を持っています。光信号は電磁波の干渉を受けず、ファイバーからの信号漏洩が極めて少ないため、外部からの傍受が非常に困難です。光信号は、暗号化との親和性が高く、将来的には、光ファイバーを使用した量子暗号通信の実装が期待されています。こうした特性により、光相互接続は高度なセキュリティを要求される組織のデータセンターにとって、理想的な選択肢となっています。

次世代光通信を支えるDWDM伝送技術

高速光通信データセンターの通信速度の大きな向上をもたらしているのがWDM(波長分割多重)技術です。WDMは、1本の光ファイバーに複数の異なる波長の光信号を同時に伝送する技術です。近年、WDMをさらに高密度化させたDWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing:高密度波長分割多重)という技術も開発されています。DWDMは、1本の光ファイバーで最大160波長以上の光信号を同時に伝送できる場合があります。それらの信号は1波長あたり100Gbps*4以上の伝送速度を持ち、1本のファイバーで数テラビット/秒の伝送が可能となることから、伝送容量が従来のWDM技術に比べて大幅に増大します。
*4WDM技術入門:次世代通信を支える波長分割多重の基本と応用 | newji

DWDM伝送技術の送信側では、レーザーが異なる波長の光を生成し、それぞれの波長にデータを変調させます。これらの信号はMUXフィルターという合波器によって多重化され、1本のファイバーに乗せて送信されます。受信側では、DEMUXフィルターという分波器によって、合波される前の各波長に分離され、元のデータを復元します。
DWDMの主な利点は、既存のファイバーインフラをそのまま利用しながら、伝送容量を大幅に増加できることです。これにより、通信ネットワークの拡張が容易になり、既存インフラを最大限に活用することで、コストパフォーマンスが大幅に向上します。

光ファイバーのイメージ図

高速通信を可能にするデジタルコヒーレント伝送技術

WDM技術とともに、高速光通信技術として2010年頃から実用化が始まっているのが、デジタルコヒーレント伝送技術です。デジタルコヒーレント伝送技術は、光通信システムにおいて信号の「振幅」と「位相」を用いて、より多くの情報を一度に伝送できる高度な変調方式です。この技術により、従来の直接検波方式と比較して、より高速かつ長距離の光通信が可能になります。

従来の光通信は、光のオン・オフでデジタル信号を送っていました。それは例えていえば、
懐中電灯を点けたり消したりすることでモールス信号を送るのに似ています。それに対してデジタルコヒーレント伝送では、懐中電灯の光の「色」を位相、「強さ」を振幅として変えることで、より多くの情報を光に乗せることを可能にします。具体的には、電磁波である光の波の高さ(振幅)と、波の形(位相)を送信側で変調してから光信号として発信します。受信側では、光検出器で信号を電気信号に変換し、デジタル信号処理を行うことで、伝送中に生じた歪みを補正して、元の信号を高精度に復元します。

デジタルコヒーレント技術は1波長あたり100Gbps以上の高速伝送を実現し、限られた帯域幅でより多くの情報を伝送できることが大きなメリットです。信号の劣化も少ないために、長距離伝送を行う高速光通信データセンターにおいて不可欠な技術となっています。

注目の新技術、コ・パッケージド・オプティクス(CPO)

次世代高速光通信データセンターを支える技術の一つが、コ・パッケージド・オプティクス(以下、CPO)と呼ばれる新しい基盤です。CPOは、電子チップと光学エンジンを同一のパッケージ内に集積する先進的な技術です。この技術により、データセンター内の通信速度を飛躍的に向上させつつ、消費電力を大幅に削減することが可能になります。

CPOのメリットの1つ目は、高速通信です。電子チップと光学エンジンの距離を極限まで短縮することで、超高速のデータ転送が可能となります。CPOでは電気配線の長さが短縮され、光と電気の信号変換の頻度が減るため、消費電力を大幅に削減することができます。また、1つのパッケージに複数の機能を集積することで、システム全体の小型化と高密度化が可能になります。CPO技術により、1チップあたりの帯域幅を数テラビット/秒に拡張することが可能で、次世代の高速光通信データセンターを支える中核技術となることが期待されています。

ここまで見てきたように、高速光通信データセンターは、高速性、大容量、低遅延、省エネルギー、高セキュリティなど、次世代データセンターに求められる多くの要素を満たす有力なシステムです。DWDM伝送技術やデジタルコヒーレント技術、さらにはCPOなどの先進的な技術の導入により、その性能はさらに向上していきます。

デジタル社会の発展に伴いデータ処理需要がますます増大する中、高速光通信データセンターは重要なインフラとして、今後も進化を続けていくことでしょう。

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