• 要素技術

VR・AR・MR・XR関連製品への応用技術——拡大するメタバース市場に応える

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

VR・AR・MR・XRとは 急拡大するメタバース市場とXR関連技術

2021年、大手テック企業の参入をきっかけに、「メタバース」という概念が世界で大きな注目を集めるようになりました。メタバースとは、コンピュータ・ネットワーク上に構築された3次元の仮想空間のことです。そしてメタバースとともに、それを実現するARデバイス、VRデバイスの市場も、ゲーム用や産業用を中心に急拡大しています。

International Data Corporation(IDC)が2022年6月に発表した調査によれば、2021年には約1000万台だったVRヘッドセットの市場が、2026年には約3500万台まで拡大すると予測されています。

こうした拡大する市場で現在、大きく注目されているのが「MR」と呼ばれる技術です。仮想現実に関する技術では、これまで「VR」「AR」という言葉が解説に使われてきました。本稿ではまずこの3つのワードと、これらを包括する概念である「XR」について簡単にご説明します。

VRは、「Virtual Reality(仮想現実)」の略称です。コンピュータ上に人工的な環境(空間)を作り出し、あたかもその世界に入り込んだかのような感覚を体験できる技術です。最近のヘッドマウントディスプレイを用いたゲームでは、プレイヤーがゲーム内の戦場や宇宙空間、世界遺産などに実際にいるかのように、前後左右の視覚に合わせて映像が映し出されるものが数多くありますが、それがVRの世界となります。

ARは、「Augmented Reality(拡張現実)」の略称です。私たちの周囲を取り巻く現実の空間に、現実にはない付加情報をCGなどによって表示させ、重ね合わせることで、現実世界を拡張する技術です。例えばゴーグルを通して見た実際の街なかの映像に、店の名前やそこで食べられる料理など、五感に作用する情報を付与することで、ユーザーに新たな体験をもたらすことが可能になります。

Augmented Reality(拡張現実)イメージ

MRは「Mixed Reality(複合現実)」の略称です。ARで映し出された現実の世界に、VRが作り出す仮想の物体を組み合わせることで、現実空間と仮想空間を融合させる技術です。MRの世界では、例えば、現実の東京の街なかにモンスターを出現させて、プレイヤーがその後ろに回り込んで戦う、といったことも可能になります。現実空間と仮想空間のモノが相互に影響しあう世界が、MRの特徴と言えるでしょう。

そしてXRは「Cross Reality」の略で、AR、VR、MRといった技術の総称になります。XRという言葉が生まれた背景には、VRとARを複合した技術であるMRが登場したことが挙げられます。VRデバイスのヘッドマウントディスプレイを使ったゲームに、ARのコンテンツを組み合わせた場合、それがVRなのか、ARなのか、境界線を引くことは難しいため、XRという言葉でまとめて言い表すようになりました。

XR(Cross Reality)はAR、VR、MRといった技術の総称

スマートグラスとヘッドマウントディスプレイ

次に、各技術に使われるデバイスについて解説していきます。ARでは、スマートグラスが代表的なデバイスとして用いられています。2010年代初頭に大手テック企業がプロトタイプをリリースして以降、工場のメンテナンス作業やオペレーションの支援、製造や物流の現場、会議や展示会など、主にBtoB用途で活用されるようになりました。スマートグラスをつけることで、作業員は紙のかさばるマニュアルを持たずに機器などの情報を得ることができます。屋外での利用シーンも多く、さらなる小型化や軽量化が期待されています。また、エンタテイメント分野でも活用が拡大しており、スマートフォンのカメラやアプリを通して楽しむことができるゲームや、地図情報を使ったナビゲーションアプリ、部屋の間取りや家具の配置を決めるアプリなど、応用が進んでいます。

VRでは、ヘッドマウントディスプレイが代表的なデバイスとして挙げられます。現在のところヘッドマウントディスプレイは、主にVRゲームを楽しむためのデバイスとして普及が進み、リアルなホラーゲームや自分視点のシューティングゲームなどが続々と発売されています。また、ヘッドマウントディスプレイは今後、ゲームやエンターテインメントにとどまらず、さまざまなバーチャル体験やコンサート、フォーラムや会議、デートや教育、医療などでも利用されるシーンが増えていくことが期待されています。スマートグラスとは違い、視界の全体を覆い、仮想空間に没入するため、室内利用が主に想定されているのが特徴です。また、ヘッドマウントディスプレイやゴーグルを使って、VR空間やゲームを体験できるアミューズメント施設も世界各地に増えています。

VRのゲームやエンターテインメントでの利用シーン

MRでは、カメラなどで撮影された現実世界の情報(AR)を、バーチャル空間(VR)に反映させることになります。VRは現実とは異なる仮想空間に没入しますが、MRは現実世界と仮想世界が連動することから、観光や商業活動など、さまざまなビジネスシーンに利用される可能性があり、また研究開発や医療などといったシーンでも幅広い活用が期待されています。

MRの研究開発や医療現場での利用シーン

メタバースが生活の一部になる近未来

ここまでご紹介したAR、VR、MRなど、XRデバイスの技術が向上していくことで、世界的に大きな市場拡大が期待されているのが「メタバース」です。メタバースとはもともと、1992年にSF作家のニール・スティーヴンスン氏が、小説『スノウ・クラッシュ』の作中で仮想世界を指す言葉として用いたのが始まりです。その後、スティーヴン・スピルバーグ監督のもと映画化されたアーネスト・クライン氏の小説『レディ・プレイヤー1』でもメタバースという言葉が使われ、世界中で認知が広がっていきました。

「3D空間をネットワークの中に作り、相互にコミュニケーションしながら経済活動をする」「ネットの中に新しい生活圏ができること」など、メタバースについてはさまざまな可能性が議論されていますが、現在でも厳密な世界共通の定義はありません。対話やショッピング、コンサート、会議といった「現実生活の一部」が相互に繋がり、ネット上に生活空間が拡大することで「理想的なメタバース」の実現が可能になると言われています。

すでに世界中で、多くのメタバース的なゲームやアプリが登場しており、10代から20代を中心に3億ユーザーを超えるサービスや、DAU(1日あたりの利用者)が5000万人を超えるようなゲームも登場しています。メタバースの登場で、人々のコミュニケーションのあり方も変化しています。例えば、昨今、若者の間で爆発的に流行しているゲームでは、以下のようなことがすでに普通に行われています。

「VRヘッドセットとスマートフォンを連動させたマルチプラットフォームでゲームをプレイし、友人ともゲーム内でチャットする」

「ゲーム内ではそれぞれがマップやゲームそのものを作り、配信し、他のユーザーと対戦したり遊んだりする」

「プレイヤーは課金してゲーム内仮想通貨を購入し、アバターに着せるためのスキン(服・靴など)を買う」

「それがプラットフォームの収益となっている」

「ゲーム内でのバーチャルコンサートで有名アーティストのライブやイベントを友人と見たりする」

メタバース的なゲームやアプリでの利用イメージ

こうした生活スタイルやエンターテインメントの楽しみ方は、今のところ若い世代をはじめとしたトレンドに敏感な人たちに限られていますが、近い将来には、老若男女を問わず、さまざまな日常の生活や仕事などの活動がメタバース空間内で行われていくと予想されています。

メタバース市場の成長は現在、世界的にも大きく注目されており、大手テック企業だけでなく、世界中のさまざまな企業がこのメタバースを実現し、市場を成長拡大させるために資金を投入し、製品開発を続けています。

メタバースを可能にする技術とそれを応用した製品群

ただし、メタバースが広く一般に普及していくためにはそれを実現するAR・VR・MR・XRデバイス自体のスペックがさらに向上していく必要があります。また、現時点では対応するコンテンツが限られていることも、さらなる普及の阻害要因となっています。

こうしたデバイスのさまざまな技術課題を、デクセリアルズは製品や技術で解決していきます。以下、現時点で多くのXRデバイスに搭載されている私たちの製品をご紹介します。

  • 異方性導電膜(ACF)
    VR・MRデバイスに採用されている有機ELディスプレイ、液晶ディスプレイ、LCOSディスプレイやシリコン有機ELディスプレイには、映像を制御するドライバICと回路基板の電気的接続のためにデクセリアルズの「異方性導電膜(ACF)」が広く採用されています。
    異方性導電膜(ACF)の基礎知識 | TECH TIMES | 製造系エンジニアのための技術情報メディア (dexerials.jp)
  • 粒子整列型異方性導電膜 「ArrayFIX」
    ディスプレイに高精細かつ高速応答性が求められるVR・MRデバイスでは、特に有機ELディスプレイやシリコン有機ELディスプレイが採用されるケースが増えてきています。こうした最先端のディスプレイでは、デクセリアルズの差異化技術製品である粒子整列型異方性導電膜「ArrayFIX」が採用されるケースが増えています。
    粒子整列型異方性導電膜「ArrayFIX」の基礎知識 | TECH TIMES | 製造系エンジニアのための技術情報メディア (dexerials.jp)
  • 反射防止フィルム
    またVR・MRデバイスのディスプレイでは、高品位な映像とその世界への没入感覚を高めるために、外部の光の反射をできるだけ抑えることが求められます。デクセリアルズのスパッタリング技術でつくられた「反射防止フィルム」は、ヘッドマウントディスプレイに求められるハイレベルの低反射を実現することが可能です。さらに、蒸着防汚技術により、指紋や傷防止性能も付与することが可能です。
    ロールtoロール方式のスパッタ技術を使った反射防止フィルム | TECH TIMES | 製造系エンジニアのための技術情報メディア (dexerials.jp)
  • 無機拡散板・無機波長板
    ARデバイスのディスプレイにレーザー光源が使われるケースでは、光路上の部品に耐熱性が求められます。耐熱性向上に貢献できるのが、デクセリアルズの「無機拡散板」や「無機波長板」です。ARデバイスで採用されるケースが増えている反射型液晶方式(LCOS)では、無機波長板を採用することによるコントラストの向上が期待されています。

    ディスプレイとともにVRデバイスを構成するレンズ部品には、薄型化のためにパンケーキレンズが採用されるケースが増えています。こうしたデバイスでは有機材料の偏光板や波長板を複数枚貼り合わせるケースがありますが、貼り合わせの影響により、波面収差が生じ、ディスプレイの没入感を損なうことが危惧されています。デクセリアルズでは、薄型化に貢献しながら波面収差を生じない無機波長板の開発を進めています。
    プロジェクターの輝度と耐久性を高める「無機光学デバイス」 | TECH TIMES | 製造系エンジニアのための技術情報メディア (dexerials.jp) 
  • 表面実装型ヒューズ セルフコントロールプロテクター(SCP)
    ヘッドマウントディスプレイなどのVR・MRデバイスで、外部電源に接続しないスタンドアロン型端末には、リチウムイオン電池が必ず搭載されています。スタンドアロン型端末の動作時間を長くするには大容量のリチウムイオン電池を採用する必要があり、リチウムイオン電池の充放電の安全性を担保するために、デクセリアルズの表面実装型ヒューズ「セルフコントロールプロテクター(SCP)」が採用されるケースが増えていくと予想されます。デクセリアルズのSCPは、これまで25年以上にわたって25億台以上の電子機器に搭載された実績があり、XRデバイスへの採用にも自信を持っておすすめします。
    急速充電スマートフォンに対応するSCPの技術 | TECH TIMES | 製造系エンジニアのための技術情報メディア (dexerials.jp)
  • 熱伝導シート(高性能タイプ)
    ヘッドマウントディスプレイに代表されるVR・MRデバイスでは今後、より高画素かつ没入感の高い仮想世界を構築するために、CPUやGPUに高い処理能力が求められるようになります。高性能のCPU・GPUは年々、微細化が進んでチップの小型化・集積化が進むことから、発生した熱をいかに放熱するかが重要となります。VR・MRデバイスの放熱対策に大きく寄与できるのが、デクセリアルズの差異化技術製品である「熱伝導シート 高性能タイプ」です。カーボンファイバーでできたシートを使うことにより、チップの放熱に寄与し、安定した性能を発揮させることができます。
    TIM(Thermal Interface Material)の放熱原理と熱伝導シート 炭素繊維タイプの特性 | TECH TIMES | 製造系エンジニアのための技術情報メディア (dexerials.jp)
  • センサー・カメラ用接着剤
    AR・VR・MRデバイスでは複数のセンサーやカメラで外部環境をセンシングし、数値化・映像化します。こうしたセンサーやカメラでもデクセリアルズの製品が貢献できます。例えば、「UV・熱硬化型樹脂」はすでにスマートフォンのカメラのレンズ固定樹脂として、「異方性導電膜(ACF)」はフレキシブル基板(FPC)と回路基板の電気的接続用途として数多くの採用実績がありますが、AR・VR・MRデバイスでも採用が拡大していく見通しです。
    紫外線でも熱でも固まるエポキシ系接着剤の技術 | TECH TIMES | 製造系エンジニアのための技術情報メディア (dexerials.jp)
    異方性導電膜(ACF)の新たな用途――カメラモジュール部品の組み立てにも活躍 | TECH TIMES | 製造系エンジニアのための技術情報メディア (dexerials.jp)
  • アイトラッキングセンサー用材料
    VR・MRデバイスでは、赤外線を活用したアイトラッキングセンサーで使用者の視線を検知し、視線に合わせて映像の焦点を合わせ、まばたきと組み合わせることでゲームやデバイスの操作ができます。こうしたアイトラッキングセンサーは透明なフィルムに電極を配線した基板を、使用者の目の近くに配置しますが、アイトラッキングセンサー自体の光の反射を抑えるために、デクセリアルズの「反射防止フィルム」が貢献できる可能性があります。また、アイトラッキングセンサーからの信号を伝達するためのフレキシブル基板(FPC)と電気的接続を行う用途では、デクセリアルズの「異方性導電膜(ACF)」の採用が進んでいくことが期待されています。
アイトラッキングセンサー

今後もますます市場の成長が期待されるAR・VR・MR・XR、そして進化していくメタバース空間。デクセリアルズは映像に関する差異化技術をより進化させて、これらの発展や拡大に貢献していきます。

この製品のお問い合わせはこちら