「Coherent Lite方式」とPIC技術の最前線
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1.6T/3.2T時代の到来。データコム向け「Coherent Lite方式」とPIC技術の最前線

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1.6T/3.2T時代のCoherent Lite方式を支えるPIC技術

光通信において、長距離伝送を担うテレコム分野では、信号損失の低い変調方式であるCoherent通信方式(以下、Coherent方式)が採用されてきました。一方、短距離光通信であるデータコム分野では、比較的低コストで実現できるIMDD通信方式(以下、IMDD方式)を採用してきました。しかし、データセンターの大規模化、高速化に伴い、信号劣化の課題が顕在化しています。この課題を解決するため、データコムにもCoherent方式を適用した「Coherent Lite方式」と呼ばれる技術が注目を集めています。

本稿では、Coherent方式について解説した後に、データコム向けCoherent Lite方式の必要性、そしてこれを実現する素子である「Photonic Integrated Circuit:フォトニック集積回路(PIC)」の技術について解説します。

Coherent信号変調方式とは?なぜ1.6T時代に限界が見え始めているのか

光通信における信号の変調方式は、大きく分けてIMDD方式とCoherent方式の2つがあります。IMDD方式は、PAM4(4値パルス振幅変調)と呼ばれる信号処理が主流です。これは、受信した光の強度を4段階に分けてデータを表現する方式です。構造がシンプルなため、比較的低コストで実装が可能です。

しかし、GoogleやAWSなどの大手ハイパースケーラの運営するデータセンターの大規模化により、ラック間接続距離は数mから2㎞程度まで延びています。こうしたデータセンターの大規模化により、従来はデータセンター間通信(DCI)とされていた2〜10km程度の距離が、単一データセンター内通信として扱われるケースも増えています。こうした距離条件に加え、高速信号ほど、信号劣化が顕在化しやすいことから、1.6T以上、LRより長い距離では従来方式での対応が難しくなりつつあります。

一方、Coherent方式では、16QAM(16値直交振幅変調)と呼ばれる高度な変調技術を用います。これは光の「位相」、「振幅」、「偏波」すべてを利用して光を変調し、信号として伝送する方式で、IMDD方式に比べてはるかに多くの情報を1つの信号に載せることができ、長距離においても信号損失が少ない方式です。このようなCoherent方式では、外部光源を高性能に変調する変調器および受光素子の特性が重要となります。

また、より高速な3.2Tbpsでは、IMDD方式のままでは信号損失が大きく、データコムのLR(DCI接続)においてもCoherent方式が採用されていくと予測されています。こうしたデータコム領域に適用されるCoherent方式は、一般に「Coherent Lite」と呼ばれています。

この2つの方式を例えるなら、光の強さだけで情報を送るIMDD方式が「モールス信号」のようなものであるのに対し、光の強さに加えて位相や偏波まで使って情報を伝えるCoherent方式は、音の強弱に加えてメロディやリズムがある「音楽」のようなものといえるでしょう。

下図は、通信速度と伝送距離の観点から、IMDD方式、Coherent Lite方式、Coherent方式の適用領域を整理したものです。通信速度の向上や伝送距離の拡大に伴い、採用される通信方式が変化していく様子を示しています。

LRは通常2㎞以下を意味しますが、1.6Tの場合2㎞以上も含むことになるため、変則的に“1.6T CL“と呼ばれ、2027年に正式規格化される見込みであり、通信業界ではこの方向性が有力視されています。

1.6T/3.2T時代を支えるPIC技術とは

デクセリアルズでは、先述したCoherent方式およびCoherent Lite通信方式向けのPIC開発を行っています。ここでは、現在注目されているPIC技術について解説し、デクセリアルズが得意とする高速InPフォトダイオードとのシナジーについてご紹介します。

PIC(フォトニック集積回路)技術は、複数の機能素子をSiプロセスでWafer上に実現する新たな技術です。これまで光トランシーバーでは、複数の光学部品(レーザー、レンズ、変調器、フィルター、受光素子など)を精密に配置・調整して組み立てる必要があり、その組み立て工程ではサブミクロンオーダーのアライメント精度が求められる中で、歩留まりや信頼性、製造スループット(生産効率)の面でも限界が見え始めていました。これに対してPICは、光トランシーバーの光学機能をSi Wafer上に形成する技術であり、半導体製造プロセスで単一Wafer上に光トランシーバーの主要な機能を一括実装することができます。

また、TSMCをはじめとしたSiプロセスを得意とするファウンダリに製造委託することで、大規模な製造設備投資なしに事業展開が可能となります。高性能化、高信頼性、低価格化、そして大規模量産の観点からも、PICは従来ディスクリート組み立てを置き換えると期待されています。

PICの5つの主要機能

Coherent Lite方式向け PIC では、これらの機能をどのように組み合わせるかが、実装構成を検討する上での重要なポイントとなります。Coherent方式向けPICには主に以下の5つの主要機能が統合されます。

PIC 搭載素子機能 役割
光導波路 光を必要な機能まで導く配線
パッシブ素子 合分岐カプラ(Splitter, Combiner) 光が通過すると分離・合成等を行う
偏波多重分離(PRBS、PRBC)
90°ハイブリッド 光信号における直交位相成分の分離
変調器
modulator
干渉(マッハツェンダ)型(IQ-modulator) レーザー光源からの光に位相振幅変化を起こし、伝搬したい光信号に変える
VOA (variable optical attenuator) 光パワーレベルの調整
受光素子 (Photo-Detector) 光信号を電気信号に変換する

Coherent方式のPIC開発に向け、デクセリアルズが注力する技術領域

近年、データコム向け光トランシーバーにおいては、このPIC技術を導入することで、低価格化が急速に進化してきました。一方で、次世代のCoherent方式に対応したPICでは、光導波路、変調器、受光素子などを集積する構成が想定されています。デクセリアルズでは、こうした構成を前提にTRx(送受信一体型トランシーバー)向けPIC製品の開発を進めています。

また、InP(インジウムリン)高速フォトダイオードの設計ノウハウを武器に、次世代260GBd対応導波路型フォトダイオードをPIC上に異種接合することで、機能拡張を検討しています。以下は、Coherent方式に対応したTRx一体型PICの基本構成イメージです。

※黄色の部分が導波路型フォトダイオード。PIC上にSiGeのフォトダイオード搭載タイプと、InP(インジウムリン)フォトダイオードを異種接合したタイプを開発中

こうした通信方式や実装要件の変化に対し、デクセリアルズでは用途や通信距離に応じたPIC関連製品を展開しています。

*Hetero PIC: 異種接合技術(Heterogeneous integration)を適用したPIC

デクセリアルズは、Coherent Lite方式の市場拡大に対応するため、長年培ってきたInP(インジウムリン)などの化合物半導体設計技術とシリコンフォトニクス技術を融合し、Coherent Lite方式に対応するPIC開発を進めています。

Coherent Lite方式向けPICの構成や適用可能性については、個別の技術要件に応じた検討も行っていますので、ご関心があればぜひお問い合わせください。

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