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モバイルとともに屋外に!反射防止フィルムの耐候性技術

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反射防止フィルムの構成と各部の役割

反射防止フィルムは、ノートPCやモニター、テレビなどの表面に貼ることで光の反射を防ぎ、視認性を高めることができる素材です。その構造は下記イラストのように、「指紋などの汚れを拭き取りやすくするための防汚処理」「外光の反射を低減する反射防止層」「擦れなどからフィルムを守るハードコート層」「機能膜の支えとなるベースフィルム」「対象物に固定するための接着層」に分かれています。

反射防止フィルムの機能層の構成

モバイル端末の普及で耐候性が重要に

近年、スマートフォンやタブレットPCが登場したことによって以前に比べて重要視されるようになったのが、反射防止フィルムの「耐候性」です。室内で使用されることが前提のPC等のモニターに比べて、スマートフォンやタブレットPCは屋外に持ち出されることが多く、また自動車のカーナビやクラスターパネルなどのディスプレイも、太陽光にさらされる機会が多くあります。

浜辺に落ちているプラスチック容器が太陽光を浴び続けたことで、ボロボロになっているのを見たことがある人は多いと思いますが、反射防止フィルムの一部の層も有機材料を含んでいるため、強い紫外線が当たるとナノレベルで劣化し、層と層の間の界面が剥がれる場合があります。そのため当社では、屋外での使用も念頭に、耐候性を上げた反射防止フィルムの開発に取り組んできました。

紫外線によってはがれる反射防止フィルムの界面は、無機材料でできた反射防止層と、有機材料でできたハードコート層の間です。もともと無機材料と有機材料は、物性の違いから密着させることが難しい素材になります。以前のように屋内使用を前提とするデバイスでは、柔らかな自然光や間接照明レベルの明るさに耐えられれば問題なく、それほど強い密着状態をつくる必要はありませんでした。しかし、屋外でも使用されるモバイル端末では、そうはいきません。強い真夏の光に曝されても、無機と有機の層同士の密着状態を維持できる性能を確保する必要があるのです。

有機と無機の結合を強める2つの技術

「紫外線で2つの層が剥がれてしまうのは、無機材料と結合している有機材料が劣化することが原因」と述べましたが、それでは両者の密着度を上げるためにどうすれば良いのでしょうか。デクセリアルズが研究の末にあみだしたソリューションは、「有機材料の中に、強い結合が可能になるよう無機材料のシリカフィラーを添加」、さらに「ハードコート層の表面を荒くすることにより、物理的に密着を強くする」という2つの技術でした。

無機の物質はガラスを見てもわかるように、有機物質と違って太陽光にほとんど影響を受けません。また、無機物は無機物と結合しやすく、強い結合が持続します。下記は、反射防止層とハードコート層の従来タイプの結合(左)と、私たちが新たに開発した耐候性を向上させた結合(右)の概念図です。

機能層の密着向上/化学結合からのアプローチ

左の図では、下にある樹脂(有機材料)でできたハードコート層に含まれる酸素と、反射防止層(無機材料)のシリコンの一部しか結合していません。それに対して右の改良型では、樹脂に含まれるフィラーによって炭素と酸素とシリコンが、反射防止層側に含まれるシリコンと「シロキサン結合」と呼ばれる強い結合で稠密に結びついています。樹脂側に埋め込まれたシリカフィラーの大きさは1つが数十nmの大きさで、反射防止層側のシリコンと結合するためには、樹脂の表面にうまく並んでいる必要があります。そのナノオーダーのコントロールをデクセリアルズでは独自に確立し、特許を取得しました。(日本:特許6207679号、特開2016-128927号、特開2016-224443号

米国:US10752808、)

10倍以上表面を粗くしてアンカー効果を増大

機能層の密着向上/物理的接着からのアプローチ

無機層と有機層の密着を強めたもう一つの技術は、「アンカー効果」と呼ばれる物理的な作用を利用したものです。上記の写真は、物質をナノレベルで観察できる原子間力顕微鏡で、従来タイプのハードコート層の表面(左)と、高耐候性タイプ(右)を撮像したものです。左に比べて、右の表面は凹凸が大きく、山と山の間も広くなっていることがわかります。

接着面の凹凸が大きいと、その間に接着したい物質が入り込み、錨(アンカー)のように互いをつなぎとめます。このような効果を「アンカー効果」と呼びますが、そこ効果は、表面がなめらかな状態より、粗いほうが大きくなります。デクセリアルズでは、ハードコート層の表面の粗さを従来の10倍にすることで、アンカー効果による密着力を強化することに成功しました。凹凸を粗くし過ぎるとフィルムの透明度が失われて白っぽくなるため、最適なアンカー効果を生み出すと同時に、透明度も両立させているところに独自の技術があります。

アンカー効果(物理的接着)

格段に向上した反射防止フィルムの耐候性

以上で紹介した2つの新たな技術により、反射防止フィルムの耐候性を大幅に向上させることができました。下記は、従来品と改良型の反射防止フィルムに紫外線を一定時間(数百時間)当てた後、不織布で払拭し剥がれが発生するか確認を実施した結果です。従来タイプは剥離が発生するものの、耐候性を高めた高耐候性タイプは剥がれはなしという結果となりました。

反射防止層の耐候性

本記事で紹介した技術は、デクセリアルズが長年取り組んできた、屋外使用が前提であるデジカメの液晶ディスプレイ用反射防止フィルムの研究の延長線上にあります。今後も、さまざまな使用環境下に耐えうる素材の開発を進めていきます。

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