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光学薄膜を利用した反射防止フィルムの基礎知識
目次
外光反射を抑制する2つの手法
ノートPCやタブレットPCのディスプレイに、蛍光灯や外の光が映り込むと、画面の表示内容が見えにくくなります。その反射する光を抑制することで、視認性を向上する、つまり見えやすくするためのフィルムが、デクセリアルズが開発・販売している反射防止フィルムです。英語の「Anti-Reflection」の頭文字をとって、一般に「ARフィルム」と呼ばれることもあります。
ディスプレイなどの反射を低減させるには、2つの手法があります。1つ目が「光を散乱させる方法」で、2つ目が「光の波としての特徴を利用した光干渉により打ち消す方法」です。上のイメージは、2つの反射防止の効果を分かりやすく示すための図になります。何も対策をしていないディスプレイに映る蛍光灯の光(真ん中)に、「散乱」タイプの反射防止をイメージしたもの(左)、「(位相コントロールによる)反射抑制」をイメージしたもの(右)になります。左側のAGの写真は蛍光灯がぼやけて映るとともに、画面全体が少し白っぽくなっています。右のARの写真は少し蛍光灯が映り込んでいますが、画質がクリアであることがわかります。
なお、左側の写真で使われている拡散タイプの反射防止フィルムは「アンチグレア(Anti-Glare)」略して「AG」と呼ばれ、右側の写真で使われているタイプが「アンチリフレクション(Anti-Reflection)」の頭文字から「AR」と呼ばれています。以下、この2つの手法の詳細について解説します。
凹凸によって光を拡散する「AG」
まずアンチグレア(AG)の原理と特徴を見てみましょう。AGタイプのフィルムはベースフィルムの上に、光を散乱させる凹凸を作るためのシリカ粒子を含んだ樹脂層が形成されています。この凹凸に当たった光はさまざまな方向に反射されます。散乱によって見ている人の目に届く反射光の量を抑えるのが、AGの原理です。
一方でAGはその原理から、「画面が白っぽくなり、像がぼやける」というデメリットがあります。下記はAGの凹凸の大きさによって、見え方がどれぐらい違うかを示した写真です。左側の写真のほうが凹凸が大きいため光の散乱量が多く、全体に白っぽくなっています。右側の写真は左より凹凸が小さく、白っぽさは少ないですが、蛍光灯の形は左の写真に比べてはっきりしています。
光の波としての性質を利用する「AR」
次にアンチリフレクション(AR)の原理と特徴を見てみましょう。ARタイプのフィルムはベースフィルムの上に、異なる屈折率を持つ膜が重なっています。下記のイラストのようにフィルムに入ってきた光は、それぞれの界面で反射され、干渉しあって外へと出ていきます。ARフィルムは膜の厚みや素材を調整することで、光の位相をコントロールし、結果的に見ている人の目に届く反射光(各層で反射した反射光の合成光)が低減するように設計されています。ARは反射光の抑制方法としてはとても優れていますが、見る角度が変わると膜内を通る光の光路長が変化し、結果として一部の波長域の反射低減効果も変化し、それにより反射色が変化します。そして、この反射色の色味の変化が大きいと不自然な印象を与えることがあります。
デクセリアルズではこのAG、ARの双方の特長を活かすために、双方の原理、特徴を組み合わせることで、最大の効果が発揮できるフィルムの設計を行っています。下記は、黒いアクリル板の上にガラスの板を置いて、それに映った天井の蛍光灯の写真を4枚並べたものです。左から「フィルムなし」「AG」「AR」「AGとARの組み合わせ」で並んでおり、蛍光灯の見え方が大きく違います。白っぽくぼやけて見えるAG、暗いけれどはっきり蛍光灯の形がわかるARに対し、AGとARを組み合わせた一番右側の写真は、蛍光灯の光がほとんど反射されず、下のアクリルの黒がよく見えます。
見え方の好みと使用状況に合わせた選択が重要
反射防止フィルムは現在、ノートPC、タブレットPC、産業用ディスプレイ、自動車のカーナビをはじめとする車載ディスプレイさまざまな用途に使われていますが、ユーザーの好みや使用状況によって、さまざまな見え方が要求されます。下記の左3つの写真は、「ヘイズ(曇価)」と呼ばれる光の拡散度合いを表す数値が違う「AGAR」タイプの反射防止フィルムをガラスに貼り、ガラスに反射する天井灯(蛍光灯)を撮影した写真です。ヘイズが大きいほど光の散乱が大きくなり、全体に白っぽくなります。一番右は当社が開発したAGがない「ピアノブラック」タイプの反射防止フィルムを貼った写真です。
また、光干渉を利用した反射防止フィルムでは、角度依存性があることを挙げましたが、当社の反射防止フィルムは角度依存性を抑える設計となっており、広い波長範囲において低反射を実現する製品となっています。特に運転席から斜めに見ることも多い車載ディスプレイにおいては重要な指標となっています。
自動車業界、電子機器業界ほか増える反射防止フィルムの活用場面
近年、高級車のカーナビ、クラスターパネル、センターインフォメーションディスプレイ(CID)などの車載ディスプレイには、豪華な内装にマッチする「ピアノのような光沢のある黒」、いわゆるピアノブラックが求められる傾向が強まっています。この新潮流に対応するため、デクセリアルズは2010年代以降、ピアノブラックを実現する反射防止フィルムの開発に力を入れてきました。この開発では、デクセリアルズがハイグレードのPCモニターやタブレットPCのディスプレイ向けに培った独自の反射防止技術が利用されています。(詳細は「自動車の高級感を「ピアノブラック」で演出。反射防止フィルムの新技術」「急拡大の『車載ディスプレイ市場』、反射防止フィルム利用の新潮流」の記事をご覧ください)
「なにが反射しているかわからなくしたい」「反射は防止したいが、画像がぼやけるのは避けたい」「反射像の色が変化するのはいや」「光沢がなくなると高級感が失われる」など、反射防止フィルムを採用するお客さまにはさまざまな要望があります。当社ではそうした声に応えるために、多様な反射防止フィルムのラインナップを展開しています(以下スペック表を参照)。
また、見え方以外にも、さらなる耐久性へのご要望にも応えた反射防止フィルムもラインナップしています。2020年に上市した「ARフィルム HDシリーズ」は、真空蒸着法により当社従来品で40倍以上の耐久性を実現しました。(詳細は「耐久性が40倍以上に!反射防止フィルムの新技術とは」の記事をご覧ください)
デクセリアルズは、これからも柔軟な対応力を武器にニーズに応じた製品開発を進めていきます。
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