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通信用途向けフォトダイオード(PD)の設計最適化と最新動向

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通信用途向けフォトダイオード(PD)の主な特性

光トランシーバーに使用される通信用途向けフォトダイオード(PD)は、用途や目的に合わせて最適な素材・構造に設計する必要があります。本記事では、その設計の基礎知識について解説します。
フォトダイオード(PD)の性能は、主に「暗電流」「感度」「容量」「帯域幅」の項目で定まります。はじめに、フォトダイオード(PD)の設計にかかわるこれらの基本項目について説明します。なお、実際の設計では、各項目がトレードオフ(相反する性能のバランスを取る必要がある関係)の関係になっている点に注意が必要です。

  • 暗電流(Dark current, 記号: Id
    「暗電流」は、フォトダイオード(PD)に光が当たっていないときに生じる微小な電流です。主に熱やリーク電流により発生し、ノイズの主な要因であり、デバイスの性能に直接影響を与えます。感度とノイズ量を表すS/N比に直接影響するため、可能な限り小さくすることが望ましい指標です。材料選択、製造プロセスの最適化、動作温度の低下により低減可能ですが、感度との間にトレードオフの関係があり、暗電流を小さく設計するほど感度が鈍くなります。暗電流は高感度・低ノイズが要求される用途で特に重要なパラメーターで、デバイスの品質や性能評価の指標としても使用されます。
  • 感度(Responsivity, 記号: R)
    フォトダイオード(PD)の「感度」は、入射光の強度に対する出力電流の比率を表します。高感度のデバイスは微弱光でも大きな電流を生成しますが、その分ノイズも増加する可能性があります。そのため、使用目的に応じて適切な感度を選択することが重要です。特にPIN構造のフォトダイオード(PD)では、感度と帯域幅がトレードオフの関係にあります。高感度設計は微弱信号の検出に有利ですが、高速応答が必要な用途では帯域幅とのバランスを考慮する必要があります。適切な感度設計は、アプリケーションの要求に基づいて慎重に行われます。
  • 容量(Capacitance, 記号: C, Cs, Cp)
    フォトダイオード(PD)の「容量」は、デバイス内の電荷蓄積能力を表し、応答速度と感度に大きく影響します。容量が大きいと応答速度が遅くなりますが、小さすぎると感度が低下する可能性があります。高速応答が求められる用途では容量を小さくすることが重要ですが、感度とのトレードオフを慎重に考慮する必要があります。フォトダイオード(PD)の容量は、素子を構成する光吸収層の「幅」や受光径の「大きさ」で増減します。容量は帯域幅の計算にも用いられ、測定値からある程度の帯域幅の見積もりが可能です。
  • 帯域幅(Bandwidth, 記号: BW)
    フォトダイオード(PD)の「帯域幅」は、光信号を電気信号に変換できる周波数の範囲を示します。高い帯域幅であるほど信号の変化に速く対応でき、高速動作を可能にしますが、過度に高くすると他の性能に影響を及ぼすことがあります。光通信システムにおいては、他の構成要素との整合性が重要であり、システム全体の要求に応じて適切な帯域幅を選択する必要があります。PIN構造のフォトダイオード(PD)では、帯域幅と感度がトレードオフの関係にあり、用途に応じてバランスを取ることが重要です。適切な帯域幅の設計は、システムの性能と信頼性を最適化する上で重要な要素となります。

高速化のための設計最適化ポイント

ここからは、フォトダイオード(PD)の設計における最適化のポイントについて解説します。
はじめに、帯域幅と容量の関係について見てみましょう。フォトダイオード(PD)は、帯域幅が高いほど、高速で動作することが可能になります。では、帯域幅を高くするにはどのような容量の設計が必要なのでしょうか? それを表すのが次の計算式です。

帯域幅Fは、容量Cと抵抗Rから求めた帯域幅Fcrと、フォトダイオード(PD)内のキャリアが電流として流れ出る時間tから求めた帯域幅Fvの計算式

帯域幅Fは、容量Cと抵抗Rから求めた帯域幅Fcrと、フォトダイオード(PD)内のキャリアが電流として流れ出る時間tから求めた帯域幅Fvによって計算されます。

この計算式から、高速化設計のためのポイントは次の2つであることがわかります。
・容量Cを小さくすること
・キャリアの走行時間tを短くすること
フォトダイオード(PD)の設計では、これらの数値を最適に調整することが重要です。

次に、容量Cを小さくする方法を見てみましょう。
PIN型フォトダイオード(PD)の素子の容量は、受光部のPIN接合部分の厚さや形状に依存しています。

素子の要領から帯域幅を計算した例を示した図

上図は素子の容量から帯域幅を計算した例です。PIN型フォトダイオード(PD)では、主要な受光部であるI層の厚さが厚くなると、P層とN層の間の距離が広がります。それに伴い、蓄えられる電荷の量が減少するため、フォトダイオード(PD)の容量は小さくなります。容量が減ると、帯域幅は増加します。帯域幅は、デバイスが効果的に動作できる周波数の範囲を表します。

なぜ容量が減ると帯域幅が増加するのでしょうか。それはバケツの水を出し入れすることをイメージするとわかりやすくなります。容量が大きい(大きなバケツ)と水の出し入れに時間がかかりますが、容量が小さい(小さなバケツ)と水の出し入れ(信号の変化)に素早く対応できます。これは、より速い信号の変化を処理できることを意味し、そのために帯域幅が大きくなるのです。

キャリアの走行時間tを短くするには

次に、PIN型フォトダイオード(PD)のキャリアの走行時間tを短くするにはどうすればよいのでしょうか。
キャリアの走行時間tは、以下の式で計算できます。

t =
d vd
  • d:InGaAs層厚(キャリアの走行距離)
  • vd:キャリアの走行速度(走行速度は論文等から理論値を使用)

こちらの式から、「キャリアの走行距離であるI層を薄くする」ことで、キャリアの走行時間を短くできることがわかります。

一方で、走行時間tと帯域幅は、反比例の関係にあります。
以下のグラフはキャリアの走行時間から帯域幅を計算した例を示しています。

キャリアの走行時間から帯域幅を計算した例を示した図

受光部厚が薄くなる(キャリアの走行時間が短くなる)にしたがって帯域幅が増加していることが分かります。その理由は先程のバケツの例で示したように、電子や正孔の移動に時間がかかるようになり、周波数の変化に追従できるスピードが遅くなるからです。

感度と帯域幅の関係

次に、感度と帯域幅の関係について見てみましょう。

フォトダイオード(PD)の設計において、感度と帯域幅は非常に重要な要素です。その2つはトレードオフの特性を持っているため、設計者は慎重にバランスを取る必要があります。
感度を高めるには、光を吸収する層を厚くします。これは、より多くの光を捕捉して、より多くの電気信号に変換するためです。

しかし、光吸収層を厚くすると、生成された電子や正孔(キャリア)が移動する距離が長くなります。この移動時間の増加は、帯域幅(信号の変化に対する応答速度)を制限してしまいます。

感度と帯域幅のトレードオフについて説明した図

微弱光の検出が重要な用途では感度を優先し、高速通信では帯域幅を重視するといったように、設計者はこれらの要素を調整し、目的に最適なフォトダイオード(PD)を作り出す必要があります。

以上で見てきたように、フォトダイオード(PD)の各要素は天秤の両端のように、一方を上げると他方が下がってしまいます。このトレードオフを考慮しながら、用途に応じて最適なバランスを見つけることが、フォトダイオード(PD)設計の鍵となります。

デクセリアルズグループでは、紫外線、赤外線、可視光線など、さまざまな波長に対応するフォトダイオード(PD)を長年にわたり開発・製造・販売してきました。この豊富な経験を活かし、お客様に最適なフォトダイオード(PD)を選定いたしますので、いつでもご相談ください。
さらに、フォトダイオード(PD)の選定方法についての詳細を知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。

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