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AR・VRデバイスのトレンドと課題——ソリューションとなる技術と製品
目次
AR・VRデバイス搭載ディスプレイの新潮流
メタバース関連市場の成長にともない、さらなる市場の成長・拡大が期待されているのが、その世界を体験するために装着する「AR・VRデバイス」です。これらのデバイスには、ユーザーにメタバース世界に没入してもらうための映像表示機器として、さまざまな種類のディスプレイが採用されています。
AR・VRデバイスの販売台数が伸びるにつれて、それらに搭載されるディスプレイの市場も、前年比で増加を続けています。また、高機能化するデバイスの表示性能に応じて、採用されるディスプレイも毎年少しずつ変化しています。さらに、最近のデバイスではユーザーの視覚体験を向上させるために、従来のディスプレイ1枚を両目で視認する方式から、片目につき1枚ずつ(計2枚)のディスプレイを搭載するモデルも増えてきました。そのため、AR・VRデバイス用のディスプレイ需要も、右肩上がりで伸び続けています。
ここからは、このような背景のもと、近い将来のAR・VRデバイスにどのようなディスプレイが搭載されていくか、トレンドを解説していきます。
VRデバイスはLTPS LCDに回帰
ユーザーがあたかも別の世界に入り込んだかのような感覚が味わえるVRデバイスのディスプレイには、現在、一般的なTFT(薄膜トランジスタ)ベースのLTPS LCD(低温ポリシリコン液晶ディスプレイ)や、AMOLED(アクティブマトリクス有機ELディスプレイ)のディスプレイが採用されています。この2つのディスプレイは以前からスマートフォンに採用されており、VRデバイスにも活用されるようになりました。
特にAMOLEDは、高速応答性と高色域の点でLTPS LCDよりも優れているため、最近まで多くのVRデバイスで採用されてきました。その一方、AMOLEDは画素配列と密度に制約があり、PPI(Pixel Per Inch・1インチあたりの画素数)を一定以上に向上させること、色ムラの発生を改善することに課題があります。また、価格も高いため普及価格帯のデバイスに搭載するのは困難でした。
このような事情から、最近では、VRデバイスのディスプレイにLTPS LCDを採用するケースが目立っています。LTPS LCDはAMOLEDよりもPPIが優れており、また価格優位性があることから、直近はAMOLEDに代わってVRデバイスのディスプレイの主流となっているのです。
LTPS LCDやAMOLEDなどのディスプレイを製造するために必要なサプライチェーンは、日本や中国、韓国、台湾などですでに確立されており、その3国が中心となって生産が進んできました。
一方、最近ではVRデバイスが普及するにつれ、より「リッチな体験」を求めるユーザーが増えています。メタバースの世界に慣れ親しんだユーザーは、VRディスプレイにより高い解像度、より広い色域、より速い応答速度などを求めるようになりました。
そうしたユーザーの声に応え、より良い視覚効果を提供するために、VRデバイスにOLEDoS(OLED on Silicon:シリコンオン有機発光ダイオード)を使用するブランドが増えています。OLEDoSはガラス基板やポリイミド基板の代わりに、シリコンウェハーの上にOLED素子の回路を蒸着する技術で、画素サイズの小型化と機器の薄型化を実現できます。また、VRデバイスに使用した場合、AMOLEDやLTPS LCDディスプレイよりも優れた視覚性能を発揮します。そのため、OLEDoS技術は世界のメタバース参入企業からの注目を集めており、とくに中国企業からの投資を集めています。
成熟が待ち望まれるAR用ディスプレイ
現実の世界を「拡張」する技術であるARデバイスのディスプレイは、そのほとんどがシリコン基板をベースとしています。現在、デバイスに採用されるマイクロディスプレイ技術には、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)、DMD(Digital Micromirror Device )、LBS(Laser Beam Scanner)、OLEDoS、LEDoS(LED on Silicon)などがあります。
一方、現時点のARディスプレイはどれも輝度やレンズの光学効率などに課題があり、まだ最適化された製品は誕生していません。例えば、LEDoSを用いたディスプレイは輝度の向上には向いていますが、フルカラーでの表示性能は不足しており、他のディスプレイ技術も「一長一短」あるのが現状です。このため、ARディスプレイ技術の成熟には、2022年時点であと3〜5年かかるだろうと言われています。
また、ヘッドマウントディスプレイのようなタイプのデバイスでは、「小型化・薄型化・軽量化」することも非常に重要です。最近発売されているVRデバイスのディスプレイに、「フレネルレンズ」という特殊 な光学レンズがディスプレイと組み合わせて使用されるケースが増えているのも、デバイスのサイズを小さくすることが目的の一つです。フレネルレンズとは、以下の図のように、同心円状の溝がレンズ表面に刻みこまれ、断面がノコギリ状になっているレンズのことを指します。一般的なレンズに比べて、薄く・軽くできることが大きな特徴です。
映像に「網目」が見えるスクリーンドア現象
また、高画質化を目指すVR・AR・MRデバイスのディスプレイで問題となっているのが「スクリーンドア現象」です。スクリーンドア現象とは、画素と画素の隙間(=網目模様)が見えてしまう問題です。まるで網戸越しに風景を見ているように感じるため、映像世界への没入感が阻害される大きな原因となっています。
現在、VRディスプレイの解像度は数年前と比較して飛躍的に向上し、ディスプレイの高画素化・高精細化も進んでスクリーンドア現象の発生は大きく改善しましたが、それでもまだ完全には解決されていない問題です。
VRデバイス用のディスプレイの画質を表す数値がPPD(Pixel Per Degree)です。PPDとはディスプレイの解像度を示す単位の一つで、「視角1°あたりに占める画素数」を意味します。その計算方法は、次の式で表すことができます。
2d(視距離)× r(ディスプレイの画素数)× tan(0.5°)
人間の目の解像度は、一般的に「60ppd前後」とされています。2.0の視力を持った人が、PPDが60ppdを超えたディスプレイの映像をヘッドマウントディスプレイで見ることができたら、「現実と区別がつかなくなるだろう」と言われています。PPDを60ppdにまで近づけたデバイスの開発に、いま世界中の企業が取り組んでいます。
VR・ARデバイスに貢献するデクセリアルズの技術
こうしたVRデバイスやARデバイスに採用されるディスプレイの多くに、デクセリアルズの製品や技術は、さまざまな面で貢献しています。
LTPS LCDやAMOLEDには、ドライバICを実装し、駆動させるための異方性導電膜(ACF)が広く採用されています。高精細化・高画素密度化が求められる潮流のなかで、デクセリアルズの差異化技術製品である粒子整列型異方性導電膜 「ArrayFIX」が採用されるケースも増えており、特にハイクオリティのデバイスの映像品質向上に寄与しています。
また、LCOSやOLEDoSにおいても、ディスプレイ回路をシリコン基板上に実装する必要があり、その配線のために「異方性導電膜(ACF)」が採用されています。シリコン基板はLTPS LCDやAMOLEDなどのガラス基板と違い、基板自身の熱拡散性能が高く、ドライバICやFPC実装時の熱が基板全体に逃げてしまい異方性導電膜(ACF)自体へ伝わりづらい傾向があります。そのため、実装プロセスにおいてさまざまな工夫が必要です。デクセリアルズでは、これまで長年に渡って、お客さまのディスプレイにおける技術課題を解決してきた実績があることから、最適な実装手法をご提案することができます。
また、VR・ARデバイスの中で採用されることが増えているのが、デクセリアルズの子会社であるデクセリアルズ フォトニクス ソリューションズ株式会社の前身であるDexerials Precision Components株式会社が開発・製造している「無機拡散板」「無機波長板」などの無機光学デバイスです。
ARデバイスのディスプレイの光源に、レーザー光が用いられる場合、光路に存在する部品に高い耐熱性が求められます。そのためデクセリアルズの無機拡散板や無機波長板が組み込まれるケースが増えると予想されます。またARデバイスで採用されることの多いLCOSでは、無機波長板を採用することにより、コントラスト向上にも寄与することができます。
ディスプレイとともにVRデバイスのレンズ周辺の部品も薄型化が求められており、パンケーキレンズが採用されていくケースが増えていくと考えられます。そうしたデバイスでは有機材料系の偏光板や波長板を複数枚貼り合わせることで画質を調整しますが、貼り合わせの影響により、波面収差や位相差が微妙に変化して画像に影響する可能性があり、ディスプレイの没入感を損なうことが危惧されています。そのため代わりの製品として、薄型化に貢献でき、波面収差が生じない無機波長板への期待が高まっています。これまで同社が開発・販売する無機材料は、プロジェクターに広く採用されてきましたが、今後、VR・ARデバイスへの搭載が広がっていくことは間違いありません。
このように、AR・VRデバイスに関係するさまざまな用途で、デクセリアルズは最先端の製品や差異化技術を保有しています。私たちはそれらの技術を通じ、さらなる活躍機会の増加が見込まれるメタバースの成長と発展に寄与していきます。
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