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自動車の高級感を「ピアノブラック」で演出。反射防止フィルムの新技術

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車のディスプレイで、美しいピアノブラックを実現

近年の自動車ユーザーは、外見の優れたデザインと同じように、スタイリッシュな自動車内部空間のデザインを求めています。とくに欧米のラグジュアリーなデザインを好む層では、「ピアノのような深みのある光沢のブラック」(ピアノブラック)の内装を好む人が増加しています。

そこで重要になるのが、さまざまな用途で多用されるディスプレイの見栄えです。最近はカーナビゲーションやマルチコントロールパネル、オーディオパネルやオーディオコントローラーなどに多くのディスプレイが使われています。その一方で、電源のオン・オフ時の双方でダッシュボードなど周囲のインテリアと調和する、美しい「ピアノブラック」を表現できるディスプレイは、これまで技術的なハードルから実現が困難でした。

例えば、欧米の自動車メーカーにおける「ピアノブラック」ディスプレイの高いニーズについて、次のような話もありました。

「数年前に、自動車のインテリアを手掛ける海外のメーカーを訪問したときに、そこで作られているダッシュボードやコントロールパネルを見学したのですが、まさに高級ピアノのような光沢ある黒のデザインばかりでした。一方、それと組み合わされるディスプレイは、太陽光が当たると黒い部分が白や茶色っぽくなってしまうものが多く、『インテリアのブラックにあったディスプレイの色調を実現する製品を、ぜひデクセリアルズの技術を生かして開発してほしい』と依頼されたのです」(デクセリアルズ株式会社オートモーティブソリューション事業部 豊田倫由紀)

高級感を演出する反射防止フィルム

こうしたニーズに対応するべく、デクセリアルズでは高級感のある「ピアノブラック」のディスプレイを可能にする「反射防止フィルム」の研究開発を進めました。研究のもとになったのは、ハイグレードのPCモニターやタブレットPCのディスプレイに使用されていた反射防止の技術。この黒は、光を反射させないことで実現します。

反射を防ぐためには、まず外光がどのように反射して人間の目に届くか、正確に計算する必要があります。自動車の場合、正対して見るPCモニターなどとは違って、運転席や助手席など斜めの方向からディスプレイを見ることになります。そのため、最適な視野角を想定した光学設計にもとづいて、反射防止層の構造を設計する必要がありました」(同、豊嶋匡明)

水の入ったコップにスプーンを入れると、人の目には空気と水を通り抜けるときの光の屈折率の違いから、スプーンが水の表面で折れ曲がって見えます。反射防止フィルムはその原理を応用して、屈折率の異なるナノレベルの厚みの層を何重にも重ねることで、境界反射光が表面反射光を打ち消し合い、人の目に届く反射光を減衰させることを可能にします。

「開発で苦労したのは、モニター用の反射防止フィルムのコンセプトそのままでは『透明感のある美しい黒』を実現できなかったことです。正対して見ることが少なく、常に移動する車内の場合は、外光があらゆる角度から入ってくるために、わずか数ナノメートルの層であってもその中を進む距離が微妙に変わってきます。この違いが反射防止の効果に変化をもたらし、反射光の量と色も変わります。人の目はこの変化を見逃しません。『透明感のあるピアノブラック』の実現のために最適な構造を導き出すことが必要になるのです」(豊嶋)

デクセリアルズでは、こうしたニーズのもと、シミュレーション技術を駆使して反射防止層を新たに設計、これを精密に製造することで自動車のディスプレイ向け反射防止フィルムの商品化に成功しました。この全く新しいコンセプトのフィルムにより、運転席や助手席など斜めから見る自動車特異の環境においても、ピアノブラックと調和する外観を実現しています。

アンチリフレクション(AR)の原理と特徴

反射率約0.3%。ARフィルムシリーズが評価される理由

こうした技術革新によって生まれたデクセリアルズ「ARフィルムシリーズ」は、美しい光沢を持つとともに、反射率が約0.3%に抑えられています。自動車を運転する人がディスプレイを見る角度(±40度まで)において、反射光で視認性が悪くなったり、画像の色調が変化する現象が軽減。電源を切った状態でも、ピアノブラックのインテリアと調和する大画面ディスプレイが実現できました。

デクセリアルズは2018年9月、このまったく新しい、「ピアノブラック」デザインに調和する車載ディスプレイ用反射防止フィルム「AR100-T0810」を、アメリカ・ミシガン州で開催された自動車業界向けのソリューション・カンファレンス「SID Vehicle Displays 2018」で発表しました。

「講演を聞いた自動車メーカー、自動車部品メーカーの方々から大きな反響をいただき、それをきっかけに現在もたくさんの問い合わせをいただいています。とくに高級車を販売するメーカーほど、この技術に高い関心を持たれているようです」(豊田)

そして2019年5月には、先述のカンファレンスを主催する「The Society for Information Display(SID)」が表彰する「Display Industry Awards」で、車載ディスプレイ向け反射防止フィルム「AR100-T0810」がその年のアワードを受賞いたしました。SIDはディスプレイ産業に特化した専門機関で、全世界に6,000を超えるディスプレイ産業関連の会員企業を擁しています。SIDに表彰されたことは、本技術の高い革新性を証明したと言えるでしょう。

「いまディスプレイのプロダクトデザインでは、『ブラックの表現』をどうやって美しく実現するかが各社共通の課題になっています。皆さんがお持ちのスマートフォンも、高級な製品であるほど、ディスプレイ面と周囲の樹脂の枠がシームレスにつながって見えるようにデザイン設計されていると思います。デクセリアルズでは、この新しく開発した反射防止フィルムの技術を、自動車のインテリアをはじめとした、美しく見やすいディスプレイが用いられるさまざまな分野に応用していきたいと考えています」(豊田)

デクセリアルズの反射防止フィルムARシリーズは、すでに世界中の多くの自動車メーカーにおいて採用が検討されており、フィルムを搭載したディスプレイを積んだ車が全世界の道路を走る日はもうすぐです。今後も、デクセリアルズの反射防止フィルムが活躍する場はますます増えていくでしょう。

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