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  • 2026/01/05

POCTの実装を支える技術とは? 紙ベースマイクロ流体デバイス「μPADs」が示す新たなアプローチ

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POCTが求められる背景と診断スピードの重要性

医療の現場では、診断にかかるスピードが治療判断に大きく影響します。検査結果が早く得られれば、より早く、より的確な治療が可能になります。とくに救急医療や感染症対応では、数分~数時間の差が患者の予後を大きく変えることもあります。

そこで注目されているのが、患者のそばで診断を完結させる臨床現場即時検査(POCT:Point-of-Care Testing)です。近年、その導入が進んでいます。従来の検査は、検体採取後に検査室へ運搬し、専門機器で分析するプロセスが必要でしたが、POCTはこの過程を大きく変えようとしています。

POCTはまた、医療アクセスが限られた地域や、災害時・避難所などの医療体制が十分でない環境でも活用が期待されています。

POCTとは? その場で診断を可能にする技術

POCTは、診察室、ベッドサイド、在宅、災害現場など、従来の検査室とは異なる環境で迅速に診断を可能にする技術です。その主な特長として以下の点が挙げられます。

  • 迅速性:検体採取から結果取得までの時間が短く、医師が速やかに診断・治療方針を決定できる。特に、急性疾患や感染症の診断において大きなメリットとなる。
  • 患者負担の軽減:移動が不要で、高齢者・重症患者・小児などでも検査が行いやすい。
  • 柔軟性:遠隔地や災害時など、医療インフラが整っていない環境でも対応可能。
  • DX連携:スマートデバイスとの連携により、検査結果の共有やデータ管理が容易。

新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、迅速診断の重要性があらためて認識され、POCTへの期待が高まっています。

紙ベースマイクロ流体デバイス(μPADs)とは?紙を基材としたマイクロ流体デバイスの構造と特長

POCTを実現するツールとして注目されているのが、紙ベースマイクロ流体技術(paper-based microfluidics)に分類される、紙を基材とした分析デバイス「μPADs(Microfluidic Paper-based Analytical Devices)」です。

紙の繊維内部には無数の微細な空隙があり、この空隙を液体が自然に移動していく現象を活用して、ポンプなどの外部動力を一切使わずに、液体を制御します。

主な特長は以下の点が挙げられます。

  • 低コスト・軽量・使い捨て可能:紙基材による簡便な構造で、使い捨て用途に適したコスト設計が可能。
  • 印刷による製造:インクジェット印刷や熱転写技術を用いて流体パターンを形成でき、従来の流路チップと比べて製造工程を簡略化しやすい。
  • 電源不要:液体の自然な移動(毛細管現象)を利用するため、電源やバッテリーを必要としない。
  • デジタル診断への対応:反応結果をスマートフォンのカメラで撮影し、専用アプリで定量的に解析する仕組みとの連携も可能。

紙基材の特性を活用しつつ、マイクロ流体デバイスとして必要な流路形成や反応制御を実現できる点が、μPADsの大きな特徴です。

μPADsの応用領域:医療・環境・食品など多様な分野へ

μPADsの応用範囲は、医療診断の枠を超えて多岐にわたっています。紙基材の簡便性と流路設計の柔軟性により、以下のような分野で活用が検討されています。

  • 医療:糖尿病関連の分析、感染症診断、尿検査、薬物検査
  • 環境分析:水質検査、重金属検出、農薬残留分析
  • 食品・農業:品質評価、食品中成分の検査、畜産領域での妊娠検査
  • 教育・研究:学生実験やフィールドワークで利用しやすい教材

紙基材であることで取り扱いが容易になり、専門設備がない環境でも使用できる点が、活用範囲の可能性を広げているのです。

μPADsが変える開発プロセスへの影響

μPADsの特長は検査デバイスの企画・試作にも新しい選択肢を提供します。

従来のマイクロ流体チップでは、金型製作やフォトリソグラフィに代表される半導体プロセスが必要でしたが、μPADsは印刷技術を活用することで比較的容易にパターン形成が行えます。そのため、試作から設計変更までのサイクルを短縮しやすい点が利点です。

また、複雑な操作や専門知識が不要で、サンプルを滴下するだけで結果が得られます。さらに、スマートデバイスと連携することで、画像解析による定量測定やデータ管理も容易です。この「シンプルさ」と「高機能性」の両立は、医療従事者だけでなく、患者自身が使用するセルフケアデバイスとしての可能性も広げます。

μPADs技術の今後の展開

μPADsは、簡便な構造と取り扱いのしやすさ、低コストといった特性を備え、医療・環境・食品・教育など多様な分野での展開が検討されている技術です。紙基材とマイクロ流体技術の組み合わせにより、POCTデバイスの新たな開発手法として期待が寄せられています。

デクセリアルズでは、μPADsの研究開発を進めています。
※本記事の内容は執筆時点の情報に基づいており、μPADsの仕様・提供状況は今後変更される可能性があります。最新情報については、当社からの案内をご確認ください。

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