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太陽電池タブ線接合材料(SCF)の新しい可能性・アイデアの実現 <異方性導電膜の応用>

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導電フィルムを太陽電池の技術に応用

現在、太陽電池は家庭用の電源としてのほかに、民生用デバイスのエネルギー源として利用がすすみつつあります。再生可能エネルギーへのシフトが世界的な課題となっている今日、その用途はますます拡大していくことは間違いありませんが、その起源は意外に古く、宇宙空間で活動する人工衛星や宇宙探査機などでは重要な電力源として古くから利用されています。

写真:国際宇宙ステーション(ISS)
出典:https://www.nasa.gov/image-feature/the-international-space-station-as-of-oct-4-2018-6

太陽電池の歴史を改めて振り返ると、意外な事実がわかります。1839年、フランスの物理学者サンドル・エドモン・ベクレルが、電解液の中に沈めた電極に光を当てると電気が生じる「光起電力効果」を発見したのが太陽電池の歴史の始まりです。その115年後の1954年、アメリカのベル研究所が世界で初めて実用的な太陽電池を開発しますが、実はほぼ同時期に発明されたのがシリコン・トランジスタでした。その後、シリコン半導体を用いた集積回路は18ヶ月ごとに倍の集積度になる、いわゆる「ムーアの法則」で成長を続け、50年を経てシリコン半導体はトランジスタの集積度が50万倍以上とし、圧倒的な機能向上を果たしました。

太陽電池と再生可能エネルギーへの注目

一方、太陽電池はどうだったでしょうか。

以下のグラフは、研究レベルの結晶シリコン系太陽電池セルの最高変換効率の推移を示したものです。1977年の結晶シリコン系太陽電池セルの変換効率は約14%であり、33年を経た2010年時点でも約25%とおよそ1.8倍に留まっており、性能向上が非常に緩やかであることがわかると思います。1990年代後半から世界的に地球温暖化が懸念されるようになり、各国で太陽電池の研究開発に活発な投資がおこなわれるようになったことで、2000年以降変換効率の上昇がやや上向きになってきています。

太陽電池の新しいアイデアの誕生

再生可能エネルギーの普及のカギはコストにあり、太陽電池の進歩の緩やかさは技術的な難しさと同時に、既存のエネルギーと比較して発電コストが高かったことに起因するとも考えられます。コスト低減に関しては、2000年代後半から導入動機の喚起に繋がるFIT(固定価格買取り制度)に代表される導入補助策が世界各国で推進され、飛躍的に導入量が増えたことで、太陽光発電のシステムコストは大幅に下がりました。一方でこの導入補助策は年を追う毎に補助額を減額する制度設計がされており、コスト削減のための技術革新を求めています。

太陽電池モジュールの組み立ての分野では、集電量の最大化がコスト削減の中心課題となります。太陽電池の場合、受光面にあるタブ線が接合される部分(集電電極)は影となるため発電に寄与しません。そのためバスバー(導体棒)をスリムにしつつ、必要に応じて本数を増やして集電量を最大化する方法が取られました。もちろんバスバーのスリム化はおのずとタブ線幅の縮小を意味しており、セルとタブ線の接合面積の減少はタブ線接合の信頼性向上を求めることになります。

一方、抜本的なコスト改善の方法はセルの変換効率の向上です。太陽電池セルの分野でもセルの構造や製造プロセスを見直す動きがあり、それまでのシンプルなpn接合型太陽電池セルから進化を遂げ、単結晶シリコン型構造にアモルファス層を追加したヘテロ接合型や受光面直下のエミッタ層を改善したセレクティブエミッタ型、タブ線接続を裏面に集約し表面全体を受光面としたバックコンタクト型など「高効率セル」と呼ばれるものが次々と開発されました。

多様なタブ線やバスバーとの接合

すでにタブ線を細くするトレンドを説明しましたが、単に細くするだけではタブ線の断面積が小さくなり電気抵抗が上昇します。そのためタブ線の厚みを増やす試みがなされました。タブ線の芯材は銅が一般的で熱膨張の大きい材料です。太陽電池セルのシリコンは銅に比べて熱膨張が小さいため接合時に熱ひずみが発生します。タブ線の断面積を変えずに接合面積が小さくなると接合部へのストレスは相対的に大きくなり、タブ線接合の安定性は損なわれます。

以下はタブ線の断面積を変化させてSCFで接合したサンプルでのテスト結果になります。出力に関しては予想通りタブ線の断面積にほぼ比例する形で推移し、温度サイクル試験の結果から今回評価に使用したタブ線全てで出力に大きな変化はないことから、SCF接合は1mm幅のスリムなものから0.35mmの厚いタブ線まで対応できることが確認されました。

また以下は、2種類のタブ線(リボン)と2種類のバスバー材料をSCFで接合した際の試験結果です。

一番左側は、一般的な結晶シリコン系太陽電池セルのバスバー(焼成Ag電極)と鉛フリータイプのタブ線の組合せ、真ん中は焼成Ag電極とはんだコーティングなしのタブ線(銅線)の組合せ、一番右はスパッタ電極(アルミ)と銅線の組合せの結果を示しています。右側2つは、タブ線にはんだ被覆が無いためにはんだ工法では接合できない構造になります。

グラフを見ていただくと、多少の変動はありますが、今までと異なる素材のタブ線、電極であっても安定した出力をSCF接合が可能にすることがわかります。

下の図は光拡散タイプのタブ線を接合した接合部の断面イメージ図です。通常、タブ線部分に届く太陽光は発電に寄与しないのですが、このタブ線を使うとタブ線表面で太陽光が左右に反射されカバーガラスで再び反射され発電に寄与することになります。もちろん全ての光を利用できるわけではありませんが、発電量アップに繋がります。ポイントは光を効率よく反射するために反射率の高い材料で被覆されていることと、その山切りカットの断面形状です。反射率の高い銀で被覆されている場合、はんだ工法では接合できません。SCF工法であればはんだ被覆の有り無しにかかわらず接合が可能で、断面(A)部のような箇所も問題なく接合、導通を確保することが可能です。

高効率セルへの対応

太陽電池の変換効率を上げるために、新しい高効率セルの開発も進んでいることは前述しましたが、新型のセルは複雑で精密なプロセスを経て作られているため、使いこなすためには多くの工夫が必要になります。高効率セルでは、緻密な構造を維持するには高温を避ける必要があり、セルが完成した後のタブ線接合にも低温化が求められます。当社のSCFは約180℃の低温で接合が可能であり、新しい高効率セルの組立にも対応が可能です。シリコン半導体に比べて歩みが遅かった太陽電池ですが、地球環境に配慮することの重要性が改めて強く認識されるようになった現在、さらなるブレークスルーが最も必要とされるデバイスの一つとなっています。

デクセリアルズでは異方性導電膜(ACF)やSCFの開発を通じて進化をさせた導電接着技術が接合対象となるデバイス進化の可能性を拡げることに貢献できるものと確信しています。今後も企業ビジョン「Value Matters 今までなかったものを。世界の価値になるものを。」のもと、お客さまの価値創造のお役に立てるよう努力を続けてまいります。

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