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<異方性導電膜の応用>太陽電池用の新しいタブ線接合材料「SCF」の開発秘話
前提が全く異なるアプリへの挑戦
太陽電池は電池の分類では「物理電池」に分類され、光起電力効果(Photovoltaic Effect)という物理現象を利用した半導体デバイスです。身近に存在するもっとも大きい部類の半導体デバイスの一つです。太陽電池モジュールとデクセリアルズが長年関わってきたディスプレイなどのエレクトロニクス製品とでは、同じ半導体デバイスでありながら大きな違いがありました。以下は、太陽電池モジュールの特徴を一覧にした表です。

太陽電池モジュールの特徴の中でも代表的なのは、「屋外に設置され、設置後は10年あるいは20年以上そのまま屋外環境にさらされ、太陽光が当たる限り発電を続けこれを止めることができない」という点です。屋内で使うテレビやパソコンなどとは使用条件・使用環境がまったく違うため、日射や風雨・風雪、昼夜の温度変化などによる悪影響に長期にわたって耐える必要があります。また、流れる電流の大きさもアンペア級(結晶系太陽電池モジュールの場合7アンペア以上)と非常に大きいことから、安全性にも十分配慮する必要があります。そして、はんだを代替する製品としての開発だったことより、はんだ接合と同等以上の性能が出せることが必須の条件となりました。そこでデクセリアルズでは、太陽電池用の材料開発に先だって課題を洗い出し、異方性導電膜(ACF)の技術の応用で対応出来るかを見極めることにしました。
最初の課題は「樹脂による接着で10年を超える長い期間、安定した電気接続を維持できるのか」ということでした。従来技術である「はんだ接合」は、金属同士の接合界面に合金層を形成することで接合を実現するもので、太陽電池の分野で40年以上の実績があります。他の分野でも古くから利用されている接合方法でその安定性は折り紙付きです。このはんだ工法と張り合えるだけの性能を本当に実現できるのかについては社内でもさまざまな意見がありました。
まず、当社が持つ豊富なACF用樹脂の配合をベースに太陽電池モジュールが求める要求特性を満たす可能性がある樹脂を新たに設計、この樹脂を使って異方性導電フィルムの応用である初期のSCFを試作し長期の信頼性テストを実施しました。下記左のグラフは、縦軸に接合部の電気抵抗、横軸に時間をとり、高温高湿(温度85℃、湿度85%)環境のもとで、SCFが期待される電気接続を保てるかどうかを示しています。そして右側のグラフは、温度変化(マイナス40℃から100℃)を5000回以上繰り返し与えた際の電気抵抗の変化を表します。ご覧のとおり、長時間と数千回の急激な温度変化を経ても、SCF接合部の電気抵抗値は試験開始前とほぼ変わらず、SCFによる接合が安定していることから次のステップに進むことができました。

続く課題は、太陽電池セルとタブ線の接合にSCFを使用した際にはんだの場合と同等の出力(電力)が得られるかになります。実際の出力がどうなるかは、本物の太陽電池セルを使って評価します。下記のグラフは太陽電池セルにタブ線を接合したサンプルをセルテスターと呼ばれる測定機を使って、太陽光に見立てた光を照射して得られる出力の特性(I-V特性)を測定した結果になります。最終的な判定は、照射した光エネルギーの何パーセントが電気に変換されたかを表す「変換効率」でおこないます。左のグラフははんだ工法、右がSCF工法でタブ線接合をおこなったときのものです。結果は、はんだ工法のサンプルの変換効率が平均15.3%だったのに対し、SCF工法のサンプルの変換効率は15.2%とほぼ互角の結果となり、はんだ工法と遜色ない出力特性が得られる目処が立ったのです。

また、ACFの技術を源流とするSCFは、電気伝導にミクロンサイズの導電粒子を使っており、小さな導体で本当にアンペアレベルの電流を流すことができるのか、という心配もありました。下記のグラフは、SCFで接合したセルとタブ線に電流の値を0Aから20Aまで変化させながら流した際の電圧の変化を示していて、線分の傾きが抵抗値を表すことになります。グラフでは、一直線の右肩上がりになっていて、これは20Aという大電流が流れても電気抵抗が変化ないことを示しており、導通の観点でSCFの電気的特性が損なわれないことを意味します。太陽電池セルの場合、接合面積が大きいことも今回の結果に繋がったと考えています。なお、測定機の測定上限が20Aだったため、SCFの限界点はもう少し上にあると推測されます。

はんだ接合と張り合える新しいタブ線接合材料(SCF)の誕生
以上のように、当初は樹脂接着ではんだ接合に対応するのは難しいのでは、という意見がありましたが、課題を一つ一つ解決・確認していくことで現在のSCFが誕生しました。また、セル製造やモジュール製造をされているお客さまの多大なる協力がなければ新工法の確立はありませんでした。2021年の現在、地球温暖化をはじめとする気候変動への懸念は深まり、世界各国でカーボンニュートラルが叫ばれるなど、再生可能エネルギーへの期待は大きく膨らむ一方です。私たちデクセリアルズは太陽光発電に限らず、環境問題など社会課題の解決に貢献する製品の開発を進めていきます。
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