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<各種カメラ・自動車に応用>新技術「基材レス転写型モスアイ構造」の可能性

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接着剤でモスアイ構造を転写する新技術

デクセリアルズが開発・製造・販売する「反射防止フィルム モスアイタイプ」は、基材のフィルムの上に夜行性の昆虫である蛾の眼の表面を模した微細構造を形成することで、従来の反射防止フィルムに比べて光の反射を極めて高いレベルで抑制することを可能にした製品です。フィルムの表面にはモスアイ構造、裏面には粘着層があり、このフィルムをガラス板やプラスチック板に貼ることで、表面での光の反射を低減でき光の透過度が改善されることから、光の反射を防ぎたいディスプレイの表面保護板など、さまざまな場面で活用されてきました。

さらなるモスアイ構造の応用を目指して、現在、デクセリアルズが開発を進めているのが、「支持体となる基材を使わず、接着剤を使って任意の場所にモスアイ構造体を転写する」技術です。

下のイラストは、その技術の概要図です。微細構造体の基材レス転写技術では、まずガラスやプラスチック板などの被着体の上に、紫外線(UV)硬化型接着剤を塗布します。その上にモスアイ構造体がラミネートされたフィルム(図中A)を、構造体面を接着剤側にして貼り付けて圧着、これに紫外線を当て接着剤を硬化させます。その後、ラミネートフィルムを引き剥がすと接着剤を塗布した部分のモスアイ構造が被着体に残り、シールのように部分的に被着体に転写されます。被着体に合った接着剤を選択することにより、さまざまな材料の上にモスアイ構造を転写することができます。

こちらの電子顕微鏡写真は、微細構造体の基材レス転写技術を使ってガラス板に転写されたモスアイ構造体を撮影したものです。中央の丸い形状部分がモスアイ構造体で、その厚みは10µm未満と薄い膜であることが分かります。

下の写真は、基材レス転写技術で転写したモスアイ構造体の視覚効果を示しています。青い点線で囲われた丸部分はガラスの下面が天井の蛍光灯光を反射し、白くなって見えています。それに対してモスアイ構造を転写した左の赤丸部分は、光をほぼ反射しないため下地の黒いシートの色がそのまま見え、ガラスの下面の黒色印刷との境界と分かりづらくなっています。

基材レス構造にすることでより透明に

従来のフィルムタイプのモスアイ構造体(以降、基材付きモスアイ構造体)と、ベースフィルムを廃した基材レス・モスアイ構造体の「透明度」を比較したのがこちらのグラフです。縦軸にヘイズ(光の散乱)、横軸に波長をとっています。緑線で示した基材付きモスアイ構造体は、基材(TAC*)と粘着層が被着体とモスアイ構造体の間にあるため、どうしても透明度が落ち、わずかな光の散乱が層の中で発生します。それに対して赤線の基材レス・モスアイ構造体は、全領域で何も貼っていないガラス(灰色線)と同様の透明度を示しています。

広帯域において低反射、角度の変化にも強い

こちらは、縦軸に反射率、横軸に光の波長をとったグラフです。スパッタ技術を使った反射防止フィルム(多層膜AR)と基材レス・モスアイ構造体の色に関する光学特性を示しています。このグラフからは、多層膜ARの特性として、450nm以下(青い光)と、650nm以上(赤い光)の波長域の光の反射率が高くなることが読み取れます。それに対して基材レス・モスアイ構造体のほうは、広域でより光を反射しないことがわかります。

こちらは縦軸にフィルムを見るときの角度、横軸に色の変化率をとったグラフです。中央の原点に近いほど、色の変化が少ないことを示しています。基材レス・モスアイ構造体は多くの点が原点近くにあり、どの角度から見てもほぼ色味の変化がありませんが、多層膜ARは見る方向が斜めになればなるほど、色味がつくことがわかります。

レンズカバーに貼ることでフレアを抑制

基材レス転写技術を利用したモスアイ構造体の有望な活用例の一つが、防犯カメラやドアホンなどのカメラのレンズカバーです。この種のカメラは性質上固定されていて、時間とともに変化する太陽光の影響を避けられません。カメラで明るい光景を撮影すると、入射した光がレンズ表面に反射し、再びレンズカバーに反射することで「フレア」が発生することがあります。これを防ぐには、レンズカバーに反射防止フィルムを貼ったり、モスアイ構造体を転写したりすることが有効です。以下は、左が何も対策しないときの反射率(8%)、中央が従来の反射防止フィルムを貼ったとき(1〜2%)、右がモスアイ構造体をレンズカバーに転写したとき(0.3%以下)のフレアの写真です。左でははっきり、真ん中ではわずかにフレアが確認できますが、右の基材レスのモスアイ構造体ではまったくフレアが見えなくなっています。

基材をなくしたことで、散乱が少なく透明度が高まり、接着剤で任意の場所につけられる微細構造の基材レス転写技術。主要な応用先として、ますます多様なデバイスに搭載されるようになっている各種のカメラや、自動車等に搭載される光学センサーへの活用を想定しています。完成して間もないこの技術の、本格的な産業応用への展開にぜひご期待ください。